RED文庫]  [新・読書感想文



ボクが彼女に招かれたワケ


「どうぞ」
「お、お邪魔します」
 ボクは少々、緊張しながら玄関をくぐった。
 何しろ、女の子の家に遊びに行くなんて、生まれて初めての体験である。ボクは心臓の鼓動が早くなっていることを自覚していた。
「ウチ、共働きで兄弟もいないから、そんなに緊張しないで」
「えっ?」
 彼女はボクの緊張をほぐすつもりで言ったのだろうが、ボクはそれを聞いて、今度は別の意味で緊張してきた。女の子と──それも飛び切り可愛い美少女と二人きりである。ボクはいけない妄想を頭に浮かべてしまった。
「ねえ、ケーキ食べる?」
「う、うん」
 彼女はボクを自分の部屋へ通すと、笑顔を残して、ケーキの準備をしに行った。その間、ボクはジッとしていることもできず、彼女の部屋をそわそわと眺めたりした。
 やがて、彼女はトレイに紅茶とケーキを乗せて戻ってきた。
 だが奇妙なことに、紅茶は二人分用意されているのに、ケーキは一皿しかない。まさか二人で半分こするとか?
「どうぞ」
 彼女はケーキをボクに手渡した。ボクは受け取りつつも、
「キミの分は?」
 と尋ねた。彼女は首を横に振る。
「私はいいから」
「でも……」
「ケーキ、あんまり好きじゃないの。いいから、食べて」
 彼女のスラリとしたスタイルからしても、特にダイエットをしているとは思えなかったが、せっかく勧めてくれているので、ボクはフォークを手に取り、ケーキをひとかけら、口に運んだ。
 それを見ていた彼女のノドが、ゴクン、と鳴った。ボクは思わず手を止める。
「やっぱり食べたいんじゃない?」
 ボクは彼女に言ってみた。それなのに彼女はやっぱり首を振る。
「ホント、私はいいから」
 そうは言っているが、ボクに向けている笑顔は無理をしている。ボクはケーキを皿ごと、彼女の方へ突き出した。
「そんな、無理に我慢しなくていいよ。食べたいときに食べればいいじゃないか」
 ボクはちょっと口調が強くなってしまったかなと後悔したが、それが真摯な気持ちを彼女に伝えることになったようで、彼女は微笑んだ。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
 彼女はケーキを差し出すボクの腕を握った。そして──
 ガブッ!
 彼女は突然、ボクの腕に噛みついた。
「うわああああっ!」
 ボクは激痛に悲鳴を上げ、ケーキが乗った皿を落とした。完全に腕の肉が食いちぎられる。彼女は嬉しそうにボクの肉を咀嚼していた。
「やっぱり私、ケーキよりもこっちの方が好きだわ」
 と、ニッコリ笑いながら。


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