「どっちが好きなのか、マコちゃんが決めてよ!」
ヨシナリは感情的になって、マコに迫った。マコは困っている。
「ええっ……だって、あたし……」
マコは体をもじもじさせるようにして、上目遣いにヨシナリを見て、その隣のマサキにも視線を送った。
つい、優等生的なマサキは、そんなマコをかばった。
「やめろよ! マコちゃんが困っているじゃないか!」
マサキにそう言われると、まるで自分が悪者になったようで、ヨシナリは反発した。
「お前だって、マコちゃんがどっちを好きなのか、ハッキリさせたいだろ!?」
ヨシナリはマサキに食ってかかった。今にも手が出そうな感じだ。元々、ヨシナリにはそういった粗野なところがある。
しかし、ヨシナリにしてみてれば、マコと付き合っているのは自分だと思っていただけに、マサキの存在を知った今、苛立ちを覚えるのは当然と言えた。まさか、マコがマサキにも気があるとは。マサキは他の女の子からも人気があるタイプだ。一方のヨシナリは、女の子たちから敬遠されている。唯一、親しく接してくれるのはマコだけだった。それだけに、ヨシナリは自分が裏切られたような気がした。
「だいたい、お前はどう思っているんだよ!?」
ヨシナリはマサキに怒りの矛先を向けた。その剣幕にマサキは押され気味だ。
「な、何を?」
「マコちゃんのことに決まっているだろ!」
ヨシナリがグッと拳を握るのを見て、マコがその腕に抱きつくようにして止めた。
「ヨシナリくん、暴力はやめて!」
マコに懇願されると、ヨシナリも大人しくするしかなかった。だが、マサキを睨むことはやめない。
マサキは一度、息を呑むようにしてから、
「好きだよ」
と、ハッキリと言った。それを聞いたマコが、マサキの方を振り返った。
「マコちゃん、他の女の子と比べても可愛いし、優しいところもあるし……」
マサキに面と向かって、そう言われたのは初めてなのか、マコはポッと頬を赤らめた。逆にヨシナリはカッとなる。
「何だとぉ!? オレの方がなぁ、マコちゃんとの付き合いが長いんだぞ!」
ヨシナリは怒鳴った。マコが制止していなければ、殴りかかっていたところだろう。
だが、マサキも負けてはいない。
「そんなの関係ないよ! 僕なんかマコちゃんとキスしたもん!」
それを聞いたヨシナリは激怒した。
「ウソつけ! マコちゃんがお前なんかと、そんなことをするもんか!」
「本当だよ!」
一歩も退かないマサキに、ヨシナリの苛立ちは募る。もう顔が真っ赤だ。
「オレはなあ、マコちゃんと一緒にお風呂に入ったんだぜ! いいだろう!?」
ヨシナリは負けじと激白した。マコと風呂に入ったのは自分だけだという自信があった。マコ自身がそう言っていたのだから間違いない。
一瞬、ひるんだマサキだったが、
「一緒に遊園地や動物園へ行った!」
と、反撃。
すると、すかさずヨシナリも、
「オレなんか、誕生日にプレゼントをもらったぜ!」
と、言えば、
「僕はマコちゃんと寝た!」
と、マサキが爆弾発言。
だが、ヨシナリも、
「オレも寝たもんね!」
と返し、両者は睨み合いになった。
間に入ったマコは、今にも泣きそうになっていた。
「やめて、ヨシナリくんもマサキくんも……あたしはどっちも好きなの……」
そんなマコを見て、ヨシナリとマサキは睨み合いをやめた。マコに泣かれるのは、二人にとって本意ではなかった。
「ごめん、マコちゃん」
「僕ら、そんなつもりじゃ……」
気まずい空気が流れた。それを破ったのは、年上の女性の声だった。
「マコちゃん、ヨシナリくん、マサキく〜ん、お迎えが来ましたよ〜」
その声を聞いた途端、三人は今までの揉め事などなかったかのように、コロッと表情を変えた。
「ママ〜!」
三人の園児たちは、それぞれの母親の元へ走り出した。