暗い船内は救難信号を発している赤いランプだけが点滅していた。
すでに宇宙を漂流して五日がすぎている。非常用の食料は底をつき、救命艇のエネルギーも残り少ない。エネルギーがなくなれば、通信も、この救難信号も発することが出来なくなる。オレは暗澹たる思いで救援を待っていた。
みんな、無事だろうか。オレが乗っていた輸送船は、突然、宇宙海賊の襲撃を受けた。オレたちが航行していた宙域によく出没するという噂は聞いていたのだが、まさか本当に現れるとは。海賊からは停船命令が通信されてきたが、オレのボスである艦長はそれを突っぱねた。ヤツらの狙いはこっちの積み荷なのだ。下手に攻撃はしてこない。そう言う心づもりがあったからだ。
しかし、海賊が威嚇で撃ってきた中距離ビームは、運悪く輸送船の動力部を直撃し、致命傷を喰らってしまった。幸い、前もって脱出用に用意してあった一人乗りの小型救命艇に乗り込むだけの時間はあったが、輸送船は爆発。さらに、海賊は獲物をふいにしてしまった腹いせとして、オレたちの救命艇にビームを撃ちまくってきた。当然のことながら、オレは必死で逃げた。どこをどうやって逃げ回ったのか記憶にないほどだ。しかし、そのせいですっかり仲間たちとはぐれてしまった。
オレの乗った救命艇はどこへ向かっているのか。海賊たちの攻撃のせいで、ジャイロは壊れてしまっていて、まったく方向が分からない。それに周囲には手頃な惑星が見当たらなかった。ただし、大したエネルギーもないので、惑星を見つけても辿り着けないだろう。唯一の希望は、たまたま通りがかった宇宙船に救難信号をキャッチしてもらうことだ。だが、この広大な宇宙で、そんな偶然がどれくらいの確率で有り得るのか。宇宙航路から外れていれば、さらに望みは薄い。
オレはただ、真っ暗な宇宙を眺めることしか出来なかった。余計な体力を消耗しては、助かるものも助からなくなってしまう。オレは死の不安に気が狂いそうになりながら、ジッと通信機のスピーカーに耳を澄ました。
やがて、知らない間にオレは眠っていたらしい。静かな船内で何かが聞こえたような気がした。オレはハッとして、外を見る。だが、先程と変わったところは何もなかった。代わりにオレの腹の虫がぐーっと鳴る。もしかすると、オレが聞いたのはこの音だったのかも知れない。オレは力なく自嘲気味の笑みを漏らした。
『……救難信号を出している宇宙船、聞こえるか? こちらは輸送船ガリバライト! 聞こえるなら、応答しろ!』
突然、通信機のスピーカーから野太い男の声が聞こえてきた。オレはシートから身を起こした。
「聞こえてる! こちら輸送船ローンレンジャーの救命艇! 母船がやられて漂流している! 救助を求む!」
しばらく間があってから返答があった。
『こちらガリバライト。了解した。今、救難信号を辿って、そちらへ向かっている。もう少しで到着できるはずだ。頑張ってくれ!』
オレはその声を聞いて、飛び上がりたいほど喜んだ。やった! 助かる!
「すまない、ガリバライト! 救助を感謝する!」
ほどなくして、正面に宇宙船のシルエットが見えてきた。あれが輸送船ガリバライトに違いない。
シルエットから輸送船の形がハッキリしてくると、それは地球のものではないと分かってきた。すでにこの時代、多種多様な異星人たちと交流しており、友好を結んでいる。それに通信機は自動的に翻訳する機能があるので、別に異星人の輸送船だと分かっても驚きはしなかった。とにかく、助かるのだから、それだけで充分だ。
「こちら救命艇。そちらの船が見えてきた」
『こちらガリバライト。こっちが見えるって? どこだ? こちらはまだ捕捉できていない』
向こうは大型なのだろう。一人乗りであるこちらが目視できないのも無理はない。
「そのまま真っ直ぐだ」
『了解。今しばらくの辛抱──』
いきなり、通信が途切れた。オレは慌てて、コントロール・パネルを見る。すべての計器が光を失っていた。エネルギーが完全に尽きてしまったのだ。通信はもちろん、救難信号も途絶している。
だが、もうすぐ向こうもこちらに気づくはずだ。オレは慌てなかった。輸送船ガリバライトはゆっくりと近づいてくる。
それにしても大きな船だ。オレが搭乗していた輸送船ローンレンジャーよりも大きそうだ。それに頑丈そうな装甲。あれなら海賊の砲撃にもびくともしないだろう。
しかし、迫ってくる輸送船を見るにつけ、オレの目は次第に見開かれ、焦燥感が冷や汗となった。大きい。いや、大きすぎる。
オレの救難信号をキャッチした異星人は、とんでもない巨人型のエイリアンだったに違いない。宇宙空間では遠近感が狂うのだが、今、視界を埋め尽くす船体は小惑星ほどもある。それが真っ直ぐにこちらへ向かっていた。
「や、やめろ! ぶつかる!」
オレは喚いたが、もちろん、それが伝わっているとは思えなかった。向こうとしたら、急に救難信号が途絶え、しかも肉眼はもちろん、レーダーですら確認できないほど小さい宇宙船なのだから、こちらに気づくわけがない。むしろ、どこへ消えてしまったのかと不思議に思っていることだろう。
オレは激突の瞬間、目をつぶった。