「誠に申し訳ございませんでした!」
記者会見場で校長と副校長が立ち上がり、揃って頭を下げると、一斉にカメラのフラッシュがたかれた。シャッター音が途絶えるまで、校長たちは頭を上げない。ようやく着席したときは、今にも泣きそうな顔だった。
M高校野球部は、Y県でもそんなに強いチームではなかったが、一風変わった監督で、ちょっとした話題になっていた。なんと現職の住職が監督なのだ。
普通の練習に加え、座禅や写経を選手たちの精神修行に加えた、そのユニークなキャラクターと手腕で、県大会前にはテレビの取材も訪れたのだが、その直後に不祥事。こともあろうに野球部員数名を連れて居酒屋へ行き、酔った勢いで女性客にしつこく絡んだのだという。事件はたちまち発覚し、監督は謹慎処分、M高校野球部の県大会出場も取り下げられてしまった。有名なチームだっただけに、事件に対する扱いも必要以上に大きくなっている。
「監督は、どうして未成年である選手たちまで店に連れていったのでしょう?」
記者からの質問が飛んだ。校長は顔を引きつらせつつ、
「監督自身が申しておりましたところによると、選手たちと親睦を図ろうとした結果だと……」
と苦しい弁明をした。記者たちは呆れ顔を作る。
以前から、監督の酒癖は悪かったらしい。いわゆる生臭坊主というヤツだ。近所での評判も、「酒さえ飲まなければ」と言われていたほどで、いつかこんな不祥事に発展しなければいいがと囁かれていた。もっとも、選手たちまで居酒屋へ誘うとは、誰も想像していなかったが。
記者の質問はなおも及ぶ。
「まだ高校生でしょう? 選手たちも断らなかったんですか?」
「最初は何かごちそうするとだけ言われて、ただ付いていったみたいです。それが居酒屋だと知ると、今度は監督に『酒さえ飲まなければ大丈夫だから』と言われ、半信半疑のまま中へ入ってしまったと。もちろん、選手たちは一滴もアルコールを口にしておりませんが、認識の甘さを指摘されても仕方ありません。また、私どもの日頃の指導も至らず、大変反省しております」
校長は平謝りだった。早くこんな針のむしろのようなところから逃げ出したい心境だろう。
「それで居酒屋へ行った選手たちには、どのような処罰をなさるつもりですか?」
「はい。一部の者の過ちとはいえ、選手たち自らが連帯責任を取ると申し出ましたので……」
するとそこへ、学帽をかぶった制服姿の野球部員たちが入ってきた。思いもかけなかった選手たちの行動に、記者席がざわめく。その前で、選手たちはズラリと横一列に並んだ。
主将が帽子を取ると、整列していた全員がそれにならった。
「この度はお騒がせし、申し訳ございませんでした!」
部員全員が報道関係者に向かって謝罪した。またしてもフラッシュの嵐。
校長も今一度、立ち上がった。
「えー、このように選手たちも全員頭を丸めて反省しておりますので、何卒──」
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