彼は、生まれてから二十二年というもの、まったく女性にモテなかった。
その理由は彼自身、充分に分かっているつもりだ。顔は四角く、目つきが悪い。体型は胴長短足、おまけに間食による脂肪の摂り過ぎ。性格も暗く、社交的な場所が苦手で、友達と呼べる者など皆無だ。勉強だって出来ないし、運動なんてもってのほか。これでは女の子が敬遠するのも無理はない。彼が逆の立場でも同じことをするだろう。
そんな彼が、あることを契機にして、突然、女性にモテだした。
年齢は小さな子供から二十代後半くらいの若い女性まで。とにかく彼が立っているだけで、女性たちは笑顔と悲鳴を撒き散らしながら、我先にと駆け寄ってくるのだった。
「キャーッ!」
また今日も女子大生くらいの若い娘が、彼の姿を見つけるや嬌声を上げた。どうやら、五、六人のグループだったらしく、皆、同じ反応を見せる。
こういうとき、女性に対する免疫のない彼は、どうしたらいいか分からなかった。ただ、その場に突っ立っているしかない。そのうち、女子大生のグループに囲まれた。
「キャーッ、カワイイ!」
女子大生たちにそんな言葉をかけられて、彼は照れまくった。そんな仕種も可愛いと、女子大生たちはキャッキャと喜ぶ。そのうち手を握られた。
「ねー、一緒に写真撮ろ?」
女子大生の一人が言った。こういうことは珍しくない。声に出して返事をすることは難しいので、彼はうなずいた。
「撮ろう、撮ろう!」
デジタルカメラを持っていた娘が前に回ると、他の女子大生たちは彼に体を密着させるようにして取り囲んだ。そのうちの一人など、彼の腕にしがみつくようにして、ギュッと胸を押しつけてくる。彼は顔がカッと火照るのを感じた。
「はい、チーズ!」
写真は撮影係が交代しながら、四、五枚撮られた。中には悪ノリした娘に頬へキスされながらの一枚もある。学生時代では考えられなかったことだ。
「またねー!」
女子大生たちは彼と写真を撮れたことに満足したのか、手を振りながら、笑顔で去っていった。彼も手を振り返す。やがて、彼女たちの姿が見えなくなると、彼はふと現実に戻った。
いきなり人気が出た彼だったが、恋人だけはこれまでと同じように出来なかった。あれだけ、普段、チヤホヤされているのに、まだデートすらしていない。最初のうちこそ、女性たちに囲まれて天にも昇る気持ちになっていたが、最近はそのギャップに悩み、無性にむなしさを感じていた。
その日、彼はとうとう決心した。
「オレ、辞めます!」
彼は着ていたマスコットの着ぐるみを脱ぐと、遊園地でのアルバイトを辞めた。