RED文庫]  [新・読書感想文



監禁生活


「うわっ!」
 オレは乱暴に檻の中へ放り込まれた。顔から床に着地する。頑丈な体を持つオレでなければ、ケガをしていただろう。
 オレはすぐさま起き上がり、檻から出ようと振り返った。だが、時すでに遅し。出入口は素早く閉じられてしまった。オレは完全に閉じこめられたというわけだ。
「チクショウ! 出せ! オレをここから出せ!」
 檻の中でオレは喚き散らした。しかし、オレをここへ閉じこめたヤツは、口許に笑みを浮かべただけ。悪趣味にも、オレの姿を見て楽しんでいるようだった。
「どうして、オレがこんな目に……」
 なぜこんなところに連れてこられたのか、オレにはさっぱり分からなかった。何か悪いことをしたわけでも、誰かに恨みを買ったわけでもないはずなのに。
「必ずここから出てやるからな!」
 オレは閉じこめた男の顔を睨み返した。



 監禁生活三日目。
 檻の中に食事が差し入れられた。いや、食事なんて言葉はおこがましいだろう。単なる野菜クズだ。つまり、ゴミ同然である。それをこのオレに食えと言うのだ。この三日間、出されるものといえば、それしかなかった。
 飢えと乾きに苦しんでいたオレは恥も外聞もなく野菜クズに近づいたが、やはり食欲はわかなかった。だが、何かを食べなくては、このまま弱っていくばかりだ。ここから脱出するためにも、体力はつけておかないと。
 気が進まなかったが、オレは野菜クズを口にした。やはりマズイ。とてもじゃないが食べられたものではない。それでもオレは我慢して食べ続けた。
 そんな惨めなオレの姿を見ながら、檻の外で、また男が笑っていた。



 監禁生活七日目。
 オレの体は、日に日に弱っていた。体が重く、動くこともままならない。相変わらず食事の野菜クズが檻の中に差し入れられたが、それを口にする元気もなかった。このまま外へ出ることもできず、死んでいくしかないのか。オレは絶望感に苛まれた。
 ああ、もう一度、外の空気を吸いたかった。もう一度、太陽の光を浴びたかった。
 オレは死ぬ。もうすぐ物言わぬ死屍となる。振り返れば、なんと儚い一生であったろうか。オレは何のために生まれてきたのか。もっと人生を謳歌してみたかった。恋もしてみたかったし、うまいものをたらふく食ってみたかった。それが理由も分からず、こんな檻の中に閉じこめられ、人知れず死んでいくことになろうとは。
 檻の外には、相変わらずオレを見つめる男の顔があった。クソッ、お前の目的は何だったんだ? どうして、オレをこんなところに閉じこめた?
 だが、オレにはもう、そんなことを問いただす力は残っていなかった。意識が闇の奥底へと引きずり込まれていく。ダメだ……本当にもうおしまいだ……。



 すっかり動かなくなった死骸を見て、ヤスオはガッカリした表情を作った。
「あーあ、もう死んじゃった」
「やっぱり、野菜クズだけじゃ、長く生きられなかったみたいね。ヤスオ、ちゃんとお庭に埋めてあげるのよ」
「はぁーい」
 ヤスオは母親に言われたとおり、死んだカブトムシの入った虫かごをつかむと、庭へ埋めに行った。


<END>


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