RED文庫]  [新・読書感想文


ザ・プロフェッショナル


 オレはプロ中のプロだ。百発百中。狙いは絶対に外さない。
 今日もオレは、じっくりとターゲットに狙いを定めた。この時点で、すでに獲物の運命は決まったも同然である。悪く思うなよ。相手が悪かったのさ。オレは心の中で勝手に慰めた。
 もう何年になるだろうか。気がつけば、オレはこの世界で名を知られた存在になった。今では誰もがオレに一目置く。悪くはない気分だ。何事においてもナンバーワンになるというのは名誉なことだと思う。それが一般人から見れば、到底、理解しがたいことであっても。
 オレはターゲットとの距離を冷静に測った。この距離感こそ、何よりも大切なものだ。これが少しでも狂えば、獲物はするりと逃げてしまう。その見極めが、天才と呼ばれるオレと数多いる凡人の差だと言えよう。
 距離を測り終えると、オレは一旦、ターゲットから視線を逸らした。そして、ポケットからいつものヤツを取り出す。これがなくては始まらない。それはオレの手の中で銀色に鈍く光っていた。
 素人の場合、これがいくつあっても足りないかもしれないが、オレにはこのひとつだけあれば充分だった。自分でプロだと名乗るようになったときから、これを二つ以上、使ったことはない。やるときは、たったの一回で仕留める。それがオレのポリシーであり、美学だった。
 カチャリ、とオレは手にしていたものを小さな入口に押し込んだ。これで準備万端。あとはオレの指先一つにかかっている。特別な緊張感はない。ただ、いつも通り、人差し指に神経を集中させるだけ──
 次の瞬間、オレは正確無比にターゲットを捉えた。よし。オレの心に少しだけ優越感に似た歓びがわき上がる。
 ウィィィィィン、ガチャッ、ゴトン!
 狙い通り、懐かしいアニメ・キャラクターのぬいぐるみをクレーン・ゲームで獲得し、オレはニンマリとした。


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