RED文庫]  [新・読書感想文


マコちゃんは食べず嫌い


 また、おぢさんがやって来た。まるでマコちゃんが一人で留守番しているときを狙ったかのように。
「今日はマコちゃんにおみやげがあるんだよ」
 おぢさんは脂ぎった顔をテカテカ光らせながら、いやらしい笑い顔を作った。マコちゃんのパパのお兄さんなのに、おぢさんの頭はすっかり薄くなってしまっている。歳はちょうどひと回り離れているというが、それにしても兄弟にはとても見えない。
 マコちゃんは困ってしまった。マコちゃんはこのおぢさんが苦手でしょうがないのだ。
「ほ〜ら、マコちゃん。コレ、知っているかな?」
 そう言っておぢさんは、マコちゃんの目の前に“おみやげ”を突き出した。
 マコちゃんはギョッとした。おぢさんが出したもの──それは黒くてゴツゴツした、いびつな棒のような形をしたものだったからだ。マコちゃんが初めて目にするものだった。
「あれ? マコちゃんは喜んでくれないのかな? これはとってもおいしい食べ物なんだよ」
 おぢさんはニヤニヤ笑いながら説明した。でも、マコちゃんは信じられない。こんなグロテスクなものが食べ物だなんて。マコちゃんは思わず後ずさった。
 そんなマコちゃんの反応におぢさんは苦笑した。なおも黒くゴツゴツしたものをマコちゃんに近づける。
「どうしたんだい、マコちゃん? せっかく、おぢさんが持ってきてあげたんだ。遠慮なく食べていいんだよ?」
「ヤだ、食べたくない……」
 マコちゃんは弱々しく首を振った。しかし、おぢさんは簡単に引き下がらない。
「どうして? これはちょっと固いけど、甘くておいしいんだよ。マコちゃん、甘いものは好きだろ?」
「だって、こんな変なもの、食べられっこないよ」
 マコちゃんはすっかり拒絶した。おぢさんが口元へ近づけてくると、顔を背けてしまう。だが、おぢさんもまた執拗だった。
「いけないなあ、マコちゃん。食べる前から好き嫌いを言っちゃ。そういうのを『食べず嫌い』と言うんだよ」
 次第にマコちゃんは壁際まで追いつめられていった。もう、これ以上は後ろに下がれない。
「さあ、試しに舌でぺろりと舐めてごらん? マコちゃんもきっと気に入るから」
 きっと、おぢさんはこのままでは許してくれないだろう。マコちゃんは泣く泣く覚悟を決めた。
 マコちゃんはサクランボのような舌を出して、おぢさんが突き出す黒いものに、ちょんと触れた。それも一瞬。触れたか触れないかの瞬間だ。
 それでも、おぢさんはマコちゃんが言うことを聞いてくれて、ちょっぴり嬉しそうだった。マコちゃんの顔をまじまじと見つめる。
「どうだった? おいしいだろ?」
 マコちゃんは困ってしまった。実際、ほんのちょっと舐めただけなので、味なんて感じる間もなかったのが本当のところ。だから、マコちゃんは何とも言えぬ表情で黙り込んだ。
 とうとうおぢさんは、なかなか食べてくれないマコちゃんに業を煮やしたようだった。さらにグッと、黒いグロテスクなものをマコちゃんの唇へ押しつけようとする。
「さあ、今度はお口をアーンと開いて食べてごらん? ほら、アーンして」
 おぢさんはマコちゃんに強要しようとした。仕方なくマコちゃんは口を開きかける。そのとき──
「ただいまー」
 玄関を開けてママが帰ってきた。マコちゃんはおぢさんの脇をすり抜けて出迎える。
「ママ、お帰りなさぁーい!」
「ただいま。──あら、お義兄さん。いらしてたんですか?」
 マコちゃんのママは留守中の客人に気づいた。おぢさんは禿げあがった頭を掻きながら、会釈する。
「いやー、またまた留守中にお邪魔してます。マコちゃんにおみやげと思ってカリントウを買ってきたんですが、どうも食べてくれなくて。今の子はカリントウなんて食べないのかなぁ」
 そう言っておぢさんは、マコちゃんが、散々、拒んだカリントウを口の中に放り込んだ。


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