キミ子は肌寒い夜にも関わらず、ベランダへ出て、願い星を捜した。
願い星というのは、二年前に亡くなったキミ子の祖母が教えてくれたものだ。その星に願い事をすると、なんでも叶うという。
東京の夜空は、キミ子が生まれ育ったところと違い、街灯の明かりがあちこちにあって、ただでさえ小さな願い星を捜すことは難しい。いくら空気の澄んだ冬であってもだ。
しかし、キミ子はあきらめなかった。今日こそは絶対に願い星を見つける。そして、願い事をするのだ、と。
父親の仕事の関係で東京へ引っ越してきたキミ子だったが、ふくよかをはるかに通り越した肥満体形と、標準語から大きくかけ離れた故郷の訛りから、転校した学校でいじめに遭っていた。そのせいで、誰一人としてキミ子の友達になろうとする者はなく、授業以外には興味のなさそうな担任教師には、真剣に悩みを打ち明けるも、逆に訛りを笑われてしまう始末。引っ越し前に東京の生活に馴染めるか心配していた両親に相談するわけにもいかず、キミ子は屈辱と孤独感に一人で耐えなければならなかった。
「もうイヤ! みんな、みんな、嫌いよ! 私がどんな想いをしているか、思い知らせてやりたい!」
キミ子は必死に涙をこらえながら、願い星を捜し求めた。
祖母から教えてもらった願い星は、冬の季節、北東の方角に見えるという。非常に小さいが、他の星と違って金色に輝いているから、キミ子にも分かるだろうと祖母は言っていた。しかし、キミ子が生まれ育ったところは、冬、大雪に見舞われる地域として有名で、好き好んで夜に外へ出て星を眺めようと思う者はいない。キミ子も祖母に教えてもらいながら、そんなことなど最近まで忘れていた。
だが、もう頼れるのは願い星しかなかった。キミ子は寒さから、その場で足踏みをしながら、願い星を捜し続けた。ベランダは北向きで、特に障害になるようなものもないから、絶対に見つかるはずだ。
そのとき、キミ子の視界の隅で、きらりと何かが光ったような気がした。願い星かもしれないと、キミ子は気の焦りを抑えながら、ゆっくりとそちらの方向を確かめる。
「あった!」
キミ子は見つけた。金色に輝く願い星を。この東京の夜空で願い星を見つけることは、奇跡に近いかもしれない。これはきっと神様が見捨てていなかったのだと、キミ子は思った。
「願い星さま、願い星さま。どうか、学校の連中をこらしめてやってください! 是非とも、私と同じような苦しみを――いえ、私以上の苦しみを与えてやってください!」
キミ子は神の前でひざまずく信徒のように、熱心に祈った。
果たして、願い星に効果があったか否か――
時を同じくして、願い星――その星で暮らしている者たちがベルギアと呼ぶ惑星から、大規模な宇宙艦隊が出撃した。それが好戦的で版図の拡大を企むベルギア人による地球侵略の開始であったことを、キミ子はもちろんのこと、そんなことを想像だにしていない地球人たちが知る由もない。