RED文庫]  [新・読書感想文



素敵なディナーへの招待


 最近、付き合い始めた美希の誕生日は、なんとクリスマスと同じ日。そんな彼女を僕はディナーに誘った。
 美希は、僕なんかにはもったいないくらいのイイ女だ。僕は彼女に飽きられないよう、毎回、デートのたびに工夫を凝らしている。万が一、彼女の機嫌を損ねたりしたら大変だ。名誉挽回のチャンスも与えられずに、その場でサヨナラされてしまうことだろう。それくらい美希は気位が高く、移り気な性格をしている。でも、それを差し引いても、彼女と一緒の時間を過ごすことは、僕にとってかけがいのないことだった。
 今のところ、これまでに僕が練ったデートプランは彼女を満足させているようだ。しかし、油断は禁物。少しでもありきたりなものをチョイスすれば、美希を失望させてしまうに違いない。だから、いつもデートコースのリサーチは真剣勝負に似ていた。
 数週間も前から、美希にそれとなく、誕生日にデートするなら、どんなものを食べたいか訊いたところ、「変ったものが食べたい」とのことだった。なるほど、外食に慣れた美希は、すでにいろいろな店であらゆる料理を食べ尽くしているだろう。誕生日という特別な日に、そんな願望を口にしても不思議ではない。
 僕は美希の要望を聞き入れ、変ったものが食べられる店を探した。もちろん、味にも妥協は許されない。店の格調高さとか、それなりの料金とか、巷の評判とか。僕はすべてを加味して、懸命にリサーチをした。
 その結果、僕はきっと美希に満足してもらえると確信できるレストランを探し当てた。唯一の不安はクリスマスという、おそらく一年で一番忙しい日に予約が取れるかどうかだったが、幸運にも直前にキャンセルが出て、当日のテーブルが空いたらしい。僕は即座に二人分の予約をし、その電話を切るや、有頂天になって飛び跳ねそうになった。
 そして当日、青山で待ち合わせた僕らは、彼女の誕生日を祝うディナーをセッティングした店に行った。
「美希、ここだよ」
 僕は、当然、彼女が喜んでくれるものと信じていた。有名なレストラン・ガイドで三つ星も獲ったことがある超高級フレンチレストランだ。しかも、この店にしかないオリジナル料理が有名で、多くの食通からも絶賛されている。僕は、これまでのチョイスの中でも最高のものであると自負していた。
 ところが、僕に案内された彼女は、そのレストランの前に立つや、途端に不機嫌な顔になった。
「私、ここはイヤ!」
 想像もしなかった美希の拒絶の言葉に、僕は目の前が真っ暗になった。
「ええっ!? だ、だって、このレストランは超高級店として有名で、テレビや雑誌にも取り上げられているんだよ!? どうして!? 味だって最高のはずさ! なのに、なぜ!? ――ひょっとして、すでに誰かと来て、ここで食事をしたことがあるとか!?」
 僕はショックを覚えつつ、なんとか彼女に思い直してもらいと願った。しかし、彼女はすっかり冷めた表情で、
「来たことがあるも何も……ここは私の実家だもん」
 と、しらけた様子で言った。


<END>


RED文庫]  [新・読書感想文