RED文庫]  [新・読書感想文


マコちゃん絶体絶命


「ほら、お口をアーンしてごらん」
 おぢさんは、またママがいないのをいいことに、勝手に家に上がり込んでいた。今日はマコちゃんに美味しいものを飲ませてあげるという。でも、その正体が何か分かったマコちゃんはイヤイヤをした。
「ヤだ! コレ、嫌いっ!」
「どうしてだい? せっかく、マコちゃんのために飲ませてあげようと思ったのに」
「だって、それ、まずいんだもん!」
 かつて、マコちゃんはそれを飲んだとき、あまりにもまずかったので吐きそうになったことがあった。それ以来、この白濁した液体を飲んだことがない。同じような見た目の飲み物なら、断然、牛乳やカルピスの方が美味しいと思う。
 しかし、どうしてもマコちゃんに飲ませたがっているおぢさんは、簡単に諦めようとはしなかった。
「マコちゃん、好き嫌いをしちゃダメだよ。これはとても栄養があって、身体にいい飲み物なんだ。マコちゃんは早くオトナになりたいとは思わないのかい?」
「それは……」
 マコちゃんは口ごもった。本当は早く大きくなって、プリキュアみたいに変身するのがマコちゃんの夢なのだ。
「早くオトナになりたいんだろ? だったら、これを飲まなくちゃ。みんな、これを飲んで、大きく育つんだよ。マコちゃんのママだって、これが大好きなんだから」
 おぢさんは適当なことを言った。でも、マコちゃんにはそれがウソかホントかは分からない。
 マコちゃんはまだ迷っていた。
「ほら、ちょっとだけでもいいから」
 その隙を見逃さず、おぢさんは半ば強引にマコちゃんの口に白濁した液体を流し込もうとした。マコちゃんは歯を食いしばるように拒もうとしたが、おぢさんの方が一瞬早い。マコちゃんが苦手としているあの味が口いっぱいに広がった。
「どうだい、美味しいだろ? おぢさんのは?」
 飲んだ感想を知りたくて、おぢさんは脂ぎった顔をマコちゃんに近づけた。マコちゃんは涙目になる。すぐに飲み込むことができず、まだ液体は口の中に溜まっていた。
「どうしたの、マコちゃん? まだ、お口の中に入っているの? ゴックンしなさい。はい、ゴックン」
 ずっと口の中で溜めておくことは出来なかった。マコちゃんは観念して嚥下する。一滴残らず。いくらこれで大きくなれると言われても、やっぱり好きになれそうもない味だとマコちゃんは思った。
「ただいま」
 そこへ買い物へ行っていたママが帰って来た。マコちゃんは半べそになって、帰って来たママの足にしがみつく。
「どうしたの、マコちゃん? ――あら、お義兄さん、いらしてたんですか?」
 おぢさんは心なしか慌てた様子で頭を掻いた。
「すみません、またお留守のときにお邪魔して」
「今日はどうされたんです?」
「実は、ウチの会社で新しく商品化したヨーグルト飲料がありましてね。マコちゃんに試飲してもらったのですが、やっぱり子供向けの味付けになっていないせいか、かなりまずかったみたいで。――ごめんね、マコちゃん」
 おぢさんはマコちゃんに詫びると、美味しいと思うんだけどなぁ、と心の中で自画自賛しながら、紙パックの中に残ったヨーグルト飲料をチューっと吸った。


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