まだ始まっていないのに、マコちゃんはすでに半ベソをかいていた。
おぢさんは、何とかマコちゃんをなだめすかそうと、猫なで声を出した。
「大丈夫だよ、マコちゃん。おぢさんがちゃんとリードしてあげるから」
そうは言われても、マコちゃんは不安でたまらない。今すぐにでも逃げ出したい気分だった。しかし、ここまで来てしまった以上、やっぱりやめるとも言えない。
「ひょっとして、マコちゃんは初めてなのかい?」
おぢさんが脂ぎった顔をマコちゃんに近づけてくる。おぢさんはマコちゃんのパパのお兄さんだが、年もずいぶん離れているし、大好きなパパとは全然違う。マコちゃんは、あまりおぢさんが好きではなかった。
よりにもよって初体験のパートナーが、そのおぢさんになろうとは。その時点で、マコちゃんは涙が出そうになっていた。
「そんなに心配しないで。マコちゃんはおぢさんの動きに合わせてくれればいいんだ。ほら、こうやって──」
「痛い、痛いよ、おぢさん! そんなに動かないで!」
おぢさんが急に動いたので、マコちゃんはとても痛がった。
「だから、マコちゃんも一緒に動くんだよ。そうすれば平気さ」
「ヤだぁ! やっぱり、おぢさんとじゃ、ヤだぁ!」
「ま、マコちゃん! そんなわがまま言わないで! おぢさん、悲しくなっちゃうよ。──よし、こうしよう! おぢさんがマコちゃんの動きに合わせるよ。それならいいだろ?」
「痛いのヤだもん! もう、離れて! 離れてってば!」
運動会で初めての二人三脚に出たマコちゃんは、父兄参加のおぢさんと走るタイミングが合わず、とうとうスタート前に泣き出してしまうのだった。