RED文庫]  [新・読書感想文


鼻につくような自慢話


 ねえ、聞いて聞いて。
 僕ねえ、この夏休みに海に行ったんだ。
 ただの海水浴じゃないよ。タヒチに行ったんだ。タヒチのボラボラ島。知ってる?
 えっ、聞いたことがないって? 家に帰ったら、インターネットで調べてみなよ。ボラボラ島だよ。
 そこはねえ、とても海がきれいなんだ。ホントに凄い透明度なんだから。
 あまりにもきれいだから、シュノーケリングにも挑戦したよ。
 えっ? ちゃんと泳げたのかって? 当り前だよ。それどころか、シュノーケリングを教えてくれた先生から、素質があるねって褒められちゃった。
 それでね、海の中に潜りながら、サンゴ礁とかカラフルな熱帯魚とか、いろいろ見たよ。
 あっ、マンタにも会ったよ。マンタ、わかるでしょ? ボラボラ島はタヒチでも珍しいマンタのポイントなんだってさ。
 何? 写真はないのかって? ゴメン、水中カメラを持ってなくてさ。写真を撮れなかったんだよ。またいつか行くことがあったら、撮って来てあげようか?
 それからヘリコプターに乗って、遊覧飛行もしたよ。空から見るタヒチの海とサンゴ礁は、また格別でさ。君にもぜひ見せてあげたかったなぁ。
 それから僕ら家族はリゾートホテルに泊ったんだ。ホテルって言っても、高級ホテルなんかをイメージしてもらっちゃ困るな。岸から桟橋が伸びていて、それぞれのバンガローにつながっているんだ。もちろん、バンガローは海の上に建っていて、いつだって波の音が聞こえてくるのさ。おまけにゆったりとくつろげるスイート・タイプ。なあ、最高だろ?
 夕陽も素晴らしかったなぁ。水平線に真っ赤になった太陽がゆっくりと沈んでいくんだ。ずっと眺めていたかったくらいだよ。
 その夜、僕は現地の女の子と出会ったんだ。ダンサーでね、とても可愛かった。彼女も僕のことをひと目で気に入ってくれたみたいで、言葉は通じなかったけれど、夜が明けるまで、ずっと一緒にいたよ。
 だから、帰るときは彼女と別れなくちゃいけなくて、とても悲しかったのさ。君にわかるかい、この僕の気持が? ああ、夏休みがもっと長ければ、彼女とももっと一緒にいられたのに……。
 ところで、君はどこへ行ったの? 今年はお父さんの仕事の都合でどこへも連れてってもらえなかったの? 近所のプールへ遊びに行ったくらい? そりゃ、残念だったなぁ。何だか、僕だけ楽しい思いをしてきちゃったみたいで。
 ――おっと、おじいちゃんが僕を呼んでいる。何だろう?



「ピノキオ、また鼻が伸びているぞ」


<END>


RED文庫]  [新・読書感想文