今日は待ちに待ったプール開きの日だ。
プールサイドには、入水の合図を待つ大勢の子供や若者が、今か今かと、その瞬間を待ちわびていた。
かく言うオレも、その一人である。この日のために新調した水泳キャップに水中ゴーグルを着用、絶えず手足をブラブラさせ、これで準備運動は万端。あとは誰もいないプールへまっしぐらに飛び込むだけだ。
オレは昔から、何でも一番でないと気が済まないタチである。家では必ず一番風呂だし、運動会の徒競走では一等賞、給食だってクラスの誰よりも早く完食――てな具合だ。ただし勉強の成績だけは、その範疇に含まないが。
そのようなわけで、今日のプール開きも何日も前から狙っていたものだ。今年は誰よりも早くプールに飛び込んでやる――そう心に決めていた。
時計の針が、間もなく予定時刻の午前九時になろうとしていた。
プールの監視員が監視台に上がる。ホイッスルを持っているところを見ると、この人がスタートの合図をするのだろう。その監視員へ皆の注目が集まる。
そのとき、上空でヘリコプターでも飛んでいるのか、こちらへ近づくローター音が聞こえて来た。
――おっと、今は他のことに気を取られている場合ではない。プールに集中しなければ。
「それでは、これからカウントダウンをします。みなさんもご一緒に――10秒前! 8、7、6……」
利用客の唱和も重なり、プール開きのカウントダウンが始まった。
その瞬間、オレはただ一人、プールへと突進する。
「あっ! まだ入らないで!」
オレの反則行為を目撃した他の監視員が警告を発した。
――悪いな。これもすべては一番乗りのため。多少のフライングになど構っていられない。
オレにとっては一番か否か、それだけが意味を持つ。だから――
「……3、2、1――!」
すでにオレは1秒前の時点で、プールへ身を躍らせていた。誰よりも早い。やったぜ、一番乗りだ!
ところが――
『マジィィィィィン、ゴォーッ!』
上空から轟く掛け声とともに、突如としてプールの水が渦を巻き、真っ二つに割れた!
「えええええええっ!?」
オレは驚愕に目を見開く。
水はプールの下に出来た深い開口部へと落ちた。オレの身体もまったく水に触れることなく、そのまま真っ逆さまに落下する。
それと入れ違うようにして、地下格納庫からリフトアップされてくる巨大なスーパーロボット。まさしく“鉄の城”の異名がふさわしいぜ、っと。
しまった――と後悔したときは、すでに遅し。
ここが光子力研究所のプールであることをオレはすっかり忘れていた。