RED文庫]  [新・読書感想文


誕生! アリンコマン


「よし、完成じゃ!」
「やりましたね、博士!」
「うむ。これでワシの『アリンコマン計画』も一歩前進じゃ!」
「素晴らしいです! この錠剤ひとつで、人体が五ミリ・サイズに小さくなれるなんて! この薬を使えば、女子大生の更衣室に忍び込んでもバレませんよ!」
「バカもーん! そんな下らん用途のために、この薬を作ったんじゃないぞ! ワシは正義のヒーロー“アリンコマン”を生み出すために、人体を小さくする研究を進めて来たんじゃ! ――本当はこんな錠剤ではなく、スイッチひとつで自由自在にサイズを変えられるようにしたかったんじゃが……」
「何はともあれ、薬の効果を試してみましょうよ!」
「待ちたまえ、青木くん! 薬を飲むのは君ではない。ワシじゃ!」
「ええっ!? そういうのはいつも助手である僕の役目では……?」
「どうも君は信用できん。せっかくの世紀の発明を覗きなどという、下劣な目的で悪用されては敵わんからな」
「そんなぁ……博士、さっきのはほんの冗談ですってば」
「ウソをつけ! 目が本気になっておるぞ! ――とにかく、初の人体実験はワシ自身で行う。君は元に戻る薬を持って、待機していてくれ」
「……分かりました。トホホ」
「では、行くぞ」

 ごくん

 博士は小さくなる薬を飲んだ。効果はすぐに表れ、見る間に博士の肉体が収縮してゆく。着ていた服はそのままのため、博士の身体はその中に埋もれてしまった。
「博士ーっ! 博士、大丈夫ですか!?」
 心配になった助手の青木はペシャンコになった服に向かって呼びかけた。
 やがてズボンの裾の部分から小さくなった博士が這い出す。
「博士、無事だったんですね!」
 五ミリ・サイズに縮んだ博士が動き回っているのを見て、青木はひとまずホッとした。ただ、真っ裸になった老いさらばえた姿なので、あまり凝視しなくない。
 一方、小さくなった博士は――
「うーむ、小さくなったのはいいが、やはり着ているものまではそうもいかんか。裸になってしまうのは考えものじゃな。それに――」
 博士は自分の身体に反比例して大きくなった研究室を眺めて不快な顔つきになった。小さくなって気づいたのだが、あまり掃除をしていない研究室の床には、今の自分よりも巨大な埃やゴミが点在しており、とても不衛生で劣悪な環境に見える。このままの状態でいたら健康を害しそうだ。
 早く元に戻ろうと考えた博士は、その場でピョンピョンと飛び跳ね、助手の青木にメッセージを送った。極小サイズにまでなると、いくら大きな声を出しても普通の人間には聞き取れない。
 助手の青木は、博士のジェスチャーにすぐ気づいた。小さくなる薬と同時に開発した、元に戻る薬を博士に差し出す。これがないと薬の効果が切れても元に戻れない。
「どうぞ、戻ってください、博士」
 ところが、博士は薬の周りを飛び跳ねるだけで、まったく戻ろうとする素振りが見られない。どういうことか、青木は訝った。
「えっ? この薬じゃないんですか? ――うーん、参ったなぁ。博士が何を言いたいのか、さっぱり分からないぞ」
 戸惑う助手の姿を見上げながら、博士もまたどうしたらいいのか、すっかり困り果てていた。
「今のワシの身体よりも大きな錠剤を、一体どうやって飲めばいいんじゃ!」


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