RED文庫]  [新・読書感想文


【最新作】


踊る予言


『私には視えます。視えるのです。――20XX年9月11日。東京のとある場所で爆発事件が起きて、多数の死傷者が出ることでしょう。それはショッキングなニュースとして日本全国を震撼させるに違いありません』

 預言者ヨナと自称する謎の人物――顔は黒い覆面によって隠され、声も機械的に変えられている――が一ヶ月前にアップしたという動画の映像。閲覧再生回数はすでに1000万近くにまで達している。
「この動画を作ったのはあなたですよね? 預言者ヨナさん――いや、竹尾武雄」
 取調室の机の上に置かれたタブレット端末の動画を見つめながら、竹尾は一時停止ボタンを押された映像みたいに固まっていた。
 竹尾の反対側に座った取り調べの刑事はタブレット端末を取り上げ、慣れた手つきで操作する。
「9月11日……実際に通勤電車が爆破され、多くの乗客が犠牲になった。日本の犯罪史上、最も凶悪な事件だと言ってもいいだろう。動画で流された予言は本物だった、というわけだ」
「………」
「事件発生前、この動画の閲覧数は千回にも満たなかったが、予言が当たったと口コミが広まり、今じゃ大バズりだそうじゃないか。沢山のファンやシンパの方々がいるとかいないとか。大したものだ」
「………」
「この結果に満足か? ――爆弾魔の竹尾武雄」
 刑事からの一言に、ビクッと感電したみたいに竹尾の身体が跳ねた。顔面は死人であるかのように蒼白だ。
「そりゃあ、自作自演なんだから予言は100%的中だよな? 理工学科の学生なら時限爆弾を作るのもお手の物だろう。あなたはそれを紙袋に入れ、車内の網棚の上に置くと、素知らぬ顔をして電車から降りた。最近は電車にも防犯カメラがあるのをご存じありませんでしたか? 当日のあなたの姿がバッチリ映っていますよ。それとも他人の空似だとしらばっくれるおつもりで?」
 タブレット端末に出された次の映像は、まさしく竹尾が犯行を実行する瞬間だった。竹尾は防犯映像から顔を背ける。
 バン、と一瞬の静寂も許すものかとばかりに、刑事は怒りの感情を爆発させ、力一杯、机を叩いた。急に大きな音がしたせいで、脅された竹尾は飛び上がりそうになる。
「竹尾っ! よく、この映像を見ろ! ここに映った何人かがお前の造った爆弾で生命を落としたんだ! 何の罪もない人たちを殺してでも、動画の再生数を稼ぎたかったのか!?」



 取り調べを終えた刑事は喫煙ルームで忌々しげに紫煙を吐き出した。タバコに付き合った同僚が憐れむような目を向けてくる。
「まったく、やってられないよな」
「ああ、ホントになぁ」
 竹尾はすべて自供した。以前、満員電車に乗ったとき、痴漢に間違えられ、大変な目に遭ったことを。いくら無実を訴えても同乗していた乗客たちは誰も竹尾の言葉に耳を貸さなかったらしい。結局は証拠不十分で不起訴になったが、変な噂が大学のキャンパスにまで広がり、後ろ指を指されるようになったという。
「濡れ衣を着せられたことは同情できるが、だからって、そのときの乗客に復讐しようだなんて。あそこにいたのがそのときの乗客だとは限らないってのに。どんなに勉強やテストが出来ても、頭の悪い犯罪者ってのは絶えないな」
「でも、こうして早期解決できたのは良かったじゃないか。第二の予言――つまり次の犯行声明も出されていたんだろ?」
「二日前の夜、今度は自分が在籍する大学を名指ししてたらしい。痴漢だと噂されて、相当、根に持っていたみたいだ。知ってるか? 『預言者ヨナ』の『ヨナ』は『世直し』の『ヨナ』なんだと。冗談みたいだろ? あいつだったら、きっと次の犯行に及んでいただろうぜ」
「新たな犠牲者を出さなくて何よりだ。で、予言で明かされた犯行予定日はいつだったんだ?」
「えーと、確か今日だったはず――」
「おい、お前たち!」
 いきなり喫煙ルームのドアが開けられ、タバコ嫌いな課長が煙の中に顔を突っ込んで来た。何事か、ともう一服しようとしていた二人の刑事の手が思わず止まる。
「また爆弾事件だ! 現場へ行ってくれ!」
「えっ!?」
「竹尾が予言していたY大の理工学部が吹っ飛んだ!」
「まさか、あいつすでに仕掛けていやがったのか!?」
「いや。念のため、大学の防犯カメラをチェックして、ここ数日の間に竹尾が出入りした形跡がなかったか確認したはずなんだが」
 数日後、竹尾とは違う真犯人が逮捕されてから真相が判明した。
 Y大学に爆弾を仕掛けたのは預言者ヨナに心酔する信者で、予言を現実のものとするために自ら爆弾まで製造し、凶行に及んだという。
「……おい、もう予言の動画がアップされるなんてことはないよな?」
「だと願いたいもんだな。それから第二第三の預言者ヨナが出現しないことも」
 いつの世も人々は予言によって踊らされている。


<END>


壁紙提供=素材屋 flower&clover



RED文庫]  [新・読書感想文