RED文庫]  [新・読書感想文



酔った勢い


「この度は、大変申し訳ありませんでしたっ!」
 オレはファミレスのテーブルに頭を擦りつけるようにして、向かいの席に座るカスミちゃんに謝罪した。本当なら席に座ったままでなく、床にひれ伏して、土下座をすべきだったかもしれない。
 店内にいる他の客たちの視線が一斉にこちらへ集まった。オレの声が大き過ぎたせいだ。いきなり周囲の注目を浴びることになり、相席しているカスミちゃんが恥ずかしそうに赤面する。
「バカッ! 大声出さないでよ!」
「ご、ごめん……」
 オレは恥の上塗りをし、益々、平身低頭した。
 しばらくの間、オレたちは沈黙せざるを得なくなった。客たちの関心が薄れるのを待つ。これからの会話を誰かに聞かれたくなかったからだ。
 程なくして、お冷やで口を湿らせたオレは改めてカスミちゃんに頭を下げる。
「昨日は――いや、実際には今日なのかもしれないけど――と、とにかく、あんなことをしまい……本当に心から反省しています。カスミちゃんが怒るのも当然だと思う」
「当り前よ。まったく……思い出したくもないわ!」
 カスミちゃんの目はオレのことをまったく許すつもりなどないらしいが、声は抑え気味だった。さっきみたいに他の客から注目を集めたくないのだろう。
 正直に言うと、昨夜の出来事について、オレはうろ覚えだった。



 昨日は大学のコンパがあった。その席で隣同士になったのがカスミちゃんだ。
 高校時代に辛い失恋を経験して以来、もう二度と恋愛なんてしないだろうと思っていたのに、彼女と会った途端、一瞬でどストライクに撃ち抜かれた。まだ彼女の人となりさえ知らないのに、一目惚れをするなんて自分でも驚きだ。
 多分、アルコールが入っていたせいもあるだろう。カスミちゃんとは初対面であったにも関わらず会話が弾んだ。お互いに好きな音楽や映画の話になると、不思議なくらい好みが一致し、尚のこと好感度がアップした。きっとカスミちゃんもそうだったに違いない。彼女の接する態度からも、それが窺えた。
 コンパは居酒屋からカラオケに移動する流れへ。いつもなら二次会に参加せず、早々に帰宅してしまうのだが、カスミちゃんもカラオケに行くというので、オレも珍しく参加を決めた。
 しばらく皆でマイクを回し、飲み放題のアルコールを摂取しながら、カラオケを楽しんでいたオレたちだったが、突然、カスミちゃんが気分が悪いので帰ると言い出した。少し悪酔いしたのだろう。オレも調子に乗って飲み過ぎたかもしれない。カラオケ大会は盛り上がりも最高潮だったので、オレは一人で彼女を送り届けることにした。
 こうして、特に意図したわけでもなかったが、オレはカスミちゃんと二人きりになれた。
 ところがすでに終電は出てしまい、オレたちはどうやって帰ろうかと途方に暮れた。とにかく気分の悪いカスミちゃんをそのままにしておけず、彼女を休ませる場所を探していたオレが選んだのは――
 目の前にあったラブホテルだった。
 カスミちゃんは黙ってオレについてきた。酔った女の子をラブホに連れ込むなんて、オレも初めての経験だ。でも、否を言わなかったということは、おそらく彼女も――
 部屋に入ると、酔ったオレたちはもつれるようにベッドへ倒れ込んだ。アルコールのせいで赤くなったカスミちゃんの色っぽい顔がすぐそこに。
 それまで我慢していたオレは、とうとう彼女に――



 目が覚めてから、自分がとんでもないことをしでかしたのを知り、頭から血の気が引いた。カスミちゃんが怒るのも当然だ。
「言い訳するつもりじゃないけど、あのときはオレも酷く酔ってて……だから、つい……」
「あんな酷いことされて、黙っていられると思う!?」
「そ、そうだよね」
「そりゃあ、あなたはしてスッキリしたのかもしれないけど、こっちの身にもなって欲しいわ!」
「う、うん……」
 実のところ、そのときの記憶がまったくない、なんて正直に話したら、さらにカスミちゃんは逆上するだろうな。
 本当に憶えていないのだ。自分のしてしまったことを。でも、証拠がある以上、言い逃れは出来ない。
「誠に申し訳ありませんでした」
 今のオレにはひたすら謝ることしか出来なかった。
 カスミちゃんは腕組をしたまま、小さくなったオレをねめつける。
「ホント、信じられない! 私にゲロを吐くなんて! あのスカート、一番のお気に入りだったんだから、ちゃんと弁償してよね!」


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