東京に帰ってきた翌日、久紀は一昨日の埋め合わせをするために、真由美をファミリー・レストランに誘った。デザートまでしっかり食われるだろうと覚悟しながら、久紀は絵ハガキを取りだして、真由美に見せた。
「お前だろ、こんなこと書いたの」
久紀は立腹を隠しながら真由美に問うた。
真由美は絵ハガキを眺めると、久紀の方へ突き返した。
「『佐々木恭子』って書いてあるじゃない。へえ、やっと恭子のヤツ、告白したか」
「ふざけろ。佐々木は書いてないって言ってたぞ」
「あ、やっぱり勝原、恭子の所に行ってたんだ!」
「今はその話じゃない! なんでこんなイタズラをするんだよ!」
「私じゃないってば!」
「じゃあ、この消印は何だ? 『原宿』ってあるぞ!」
真由美は深いため息をついて、座席にもたれかけた。
「この前、恭子がこっちに遊びに来たのよ。口止めされてたけど」
「何だって?」
「高校の時の友達と、渋谷とか原宿とかで遊んだのよ。きっとこれは、その時に出したんでしょ」
「まさか……」
「第一、この字は恭子の字よ。勝原は知らないかも知れないけど……あ、そうだ、私も絵ハガキもらったから見せてあげようか?」
真由美は鞄から数学の参考書を取り出すと、しおり代わりに挟んでいた恭子からの絵ハガキを見せた。字を見比べてみると同じだった。
久紀の脳裏に、快活な牧場の娘に変身した恭子と図書室で告白をためらっていた恭子の姿がフラッシュ・バックした。
『暑中お見舞い申し上げます。突然ですが、告白します。私、勝原くんのことが好きでした。』
もはや真由美のからかう言葉も耳には入らなかった。
また明日、予備校を休むことになりそうだ。ただし、今度は事前に電話をしよう。
夏はまだ終わらない。