翌朝。
オレは玄関のチャイムの音で起こされた。どうやら、昨日の昼間から激しいセックスをしたため、つい寝過ごしたらしい。
オレの隣に愛はいなかった。行ってしまったのだ。
愛との楽しい生活が記憶としてよみがえり、オレは一瞬、感傷的になった。愛もまた、これまでの女性たち同様、オレが心から愛した一人なのだ。
だが、十二月は終わり、今日からは新年一月。また新しい生活が始まる。
玄関のチャイムは、相変わらず鳴り続けていた。どうやら、新しい女性が来たらしい。まだカレンダーの中身を確かめていなかったが、ひょっとするとまた一月には夢が写っており、再び一緒に暮らせるかも知れない。そう考えると、オレの心は浮き立った。
「はいはい、ただいま」
オレはいそいそと玄関へ出てみた。ところが──
「押忍! あけましておめでとうございます!」
外にいたのは、見知らぬ四人の大男たちだった。この寒空だというのに、なぜかパンツ一丁の裸で。まるでプロレスラーみたいだ。その迫力にオレは気圧され、そのまま尻餅をついた。
「あ、あなたたちは?」
「押忍! 自分は“猛”です!」
「“勝”です!」
「“勇”です!」
「“鉄”です!」
「吉田信二さんですね? 本日より、お世話になります! 押忍!」
男たちはそう言うと、ずかずかと部屋の中に入って来た。
オレは呆然と見送っていたが、すぐに気を取り直した。
「お、お世話になるって……そんな勝手に困りますよ!」
オレは精一杯の抗議をした。声が震えているのは仕方あるまい。
だが、男たちの一人が、昨日、抽選会場でもらったカレンダーを拾い上げ、それを引き延ばした。
「自分たちは、このカレンダーの持ち主に尽くすのが使命です!」
オレは男が広げて見せたカレンダーを直視して、愕然とした。
「そんなバカな!」
オレは男の手からひったくるようにして、カレンダーを見つめた。
そのカレンダーは、以前の女の子が写っていた物ではなく、プロレスラーのようないかつい男たちが写った物だった。オレは表紙をめくって、一月を見た。今まさに目の前にいる男たち四人が、ガンを飛ばすような鋭い目つきをしながら、腕を組んだポーズを取っているところが写っている。
オレは、それ以降のページもめくってみた。どの月も、二人以上のプロレスラーたちが写っており、可愛い女の子など一人もいなかった。最悪なのは十二月で、総勢十八名の男たちが凄みを利かせて並んでいた。
オレは力なく、その場にへたり込んだ。
「そんな……そんなバカな……」
男たちは脱力するオレに構わず、カレンダーと同じような腕組みのポーズをして、野太い声で力強く言った。
「これから誠心誠意、信二さんの身の回りのお世話をさせていただきます! もちろん、夜の生活の方もお任せください!」と。