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「うっ、うーん……」
武藤つかさは、何かが重くのしかかる感覚に目が覚めた。いつも寝覚めはいい方なのだが、今朝に限っては不快感が伴っている。イヤな予感がした。つかさは恐る恐る、重たい瞼を開けていく。
「つかさぁ……むにゃむにゃ……」
「!」
目の前にタコの口のように尖らせた唇が迫ってくるのを目の当たりにし、つかさはビックリして、起きあがった。
ガバッ!
「どわぁ!」
ゴツッ!
その拍子に、つかさに乗りかかっていた人物がベッドから転がり落ちた。一方、つかさはベッドの上で素早くファイティング・ポーズを取る。
「あ、アキト! いつの間に!?」
つかさは顔面を紅潮させながら、後頭部をさする同級生、仙月明人<せんづき・あきと>に詰問した。朝っぱらから心臓に悪い。
アキトは寝ぼけ眼をこすりながら、ひとつ大きなあくびをした。
「よぉ、つかさ」
「『よぉ、つかさ』じゃないだろ!? どうしてアキトがここにいるのさ!?」
ここはつかさの自宅二階にある部屋だった。夜、確かにつかさは一人でベッドに潜り込んだはず。アキトを呼んだ憶えはない。
だが、アキトは平然とした様子で、
「一緒に学校へ行こうと思ってな、迎えに来てやったんだよ。そしたら、お前、ウッシッシ、可愛い顔して寝てるじゃん。だから思わず──」
「思わず?」
「添い寝したくなっちまってよ。そしたら、オレもぐっすりと」
「他に変なコトしてないだろうね?」
つかさは着衣の乱れがないか確かめた。するとアキトはニヤリとする。
「そりゃあ、もちろん──」
アキトはベッドの枕を抱き寄せて、身悶え始めた。「無抵抗な体を、このオレの逞しい腕に抱きしめて──」
つかさは、益々、顔を真っ赤にさせると、アキトから自分の枕をひったくり、その顔面に一撃を喰らわせた。
「あのねえ!」
怒っていても愛らしさが抜けないつかさに、アキトは苦笑しながら手を振った。
「冗談だよ、冗談! 第一、力ずくってのは、オレの趣味じゃないからな。まあ、いつか、お前の方から処女を捧げるようにさせてみせるぜ」
アキトはウインクしてみせる。そんなアキトを見ていると、つかさは怒るよりも段々と呆れてきた。
「処女を捧げるって、第一、ボクは男だよ!」
そう。つかさは見た目、よく女の子に間違えられるのだが、歴とした男なのだ。
「いいんだ、いいんだ。オレは構わないから」
そっちが良くても、つかさの方は困る。
「それにしても、一体、どこから入ってきたの?」
「あ? そんなもん、窓からに決まってるさ」
まだ熱帯夜が続く九月、クーラーが部屋にないため、夜は窓を開けっ放しにしてあった。泥棒でも生業にしていない限り、普通の人間が二階の窓から忍び込むというのは常識的にも考えにくい。しかし、アキトは普通の人間ではなかった。
吸血鬼<ヴァンパイア>──現代に今なお息づく闇の貴族。だが、その乱杭歯さえ目にしなければ、アキトはつかさと同じくらいの高校生にしか見えなかった。
とにかく、今後はアキトの侵入に備えて、戸締まりを考えないといけないだろう。
つかさはアキトの非常識さを怒る気にもなれず、とにかく着替えようと思った。パジャマのボタンを外しにかかる。そのとき、アキトの好色な視線と荒い息づかいに気がついた。
「出てけ!」
つかさは部屋からアキトを叩き出した。あのまま一緒にいたら、再び襲われかねない。
つかさに追い出されたアキトは、頭を掻き掻き、階段を降り始めた。
「ちぇっ! 男同士なのによ」
その男に夜這いをかけてたのは誰だよ?
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