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琳昭館高校の校門前では、女子生徒たちが群を為して、登校してきた一人の男子生徒を出迎えた。その男子生徒を目にした途端、たちまち黄色い悲鳴が発せられる。その騒ぎに、他の生徒たちはもちろん、たまたま通りがかった通行人たちも振り返った。
「キャーッ、修造さまーっ!」
修造と呼ばれた男子生徒は、出迎えの女子生徒たちに右手を挙げて応えた。その端正で甘いマスクは微笑みを絶やさない。白い歯がキラリと光る。そのあと、前髪をはねのけるように頭を振る仕種をすると、女子生徒たちのボルテージが上がった。それを右手で制す男子生徒。だが、女子生徒たちの反応にまんざらでもなさそうだった。
これは琳昭館高校で毎朝繰り返される儀式だ。生徒会長、伊達修造を出迎える、いつもの光景。だが、その熱狂的な人気は衰えることがない。
伊達修造は学年トップを誇る成績と、元テニス部のエースとして全国大会ベスト8にまで登りつめた実力、そして眉目秀麗で、なおかつスマートな長身という容姿から、同校の女子はもちろん、他校の女子生徒にも熱烈なファンが多かった。誕生日やバレンタイン・デーなどには、男性アイドルも真っ青というくらいのプレゼントが届くほどだ。
「皆さん、おはようございます」
何の変哲もない朝の挨拶も、伊達が言うと愛のささやきにでも聞こえるのか、グルーピーたちの表情は恍惚となった。そのただ中に向かって、伊達は歩を進める。アッという間に伊達はグルーピーたちに取り囲まれる形になった。
そんなグルーピーたちを周りにはべらせながら、校門をくぐり、昇降口へ悠然と歩む伊達の姿は、他の男子生徒たちから反感を買っていたが、同時に自分たちが太刀打ちできないことも分かっており、黙って見過ごす他はなかった。なにしろ伊達は、勉強も運動も出来て、その上、外見も申し分ないのだから、ケチのつけようがない。伊達に突っかかって行っても、モテない男のひがみであることは明かであった。
そこへ──
どどどどどどどどっ!
「お前ら、邪魔だーぁ! どけーっ!」
物凄いスピードで校門を通過する人影があった。土煙を上げて、伊達とそのグルーピーたちへ突っ込んでくる。制服から察するに、この高校の男子生徒だ。
「キャーッ!」
グルーピーたちは先程とは違った悲鳴を上げた。このままでは衝突する!
伊達は近くの女子生徒を何人かかばったが、全員をかばいきれるものではない。あわや──と思った次の刹那、走ってきた男子生徒は跳び箱のロイター板を踏み切ったかのように、伊達たちの頭上に身を躍らせた。
「はっ!」
クルクル、パッ! 新・月面宙返り! 得点は9.99! 惜しい!(笑)
着地と同時に再加速して、謎の男子生徒は一目散に校舎裏にある道場の方角へ走り去っていった。その数瞬後、遅れて到達したソニック・ウェーブが、伊達とそのグルーピーたちを直撃し、砂混じりの突風がセーラー服のスカートをまくれ上げる。再度の悲鳴。
突然の嵐がようやく過ぎ去ると、一行は放心したように、男子生徒が去っていった方向を見やった。
「あ、あれは……?」
伊達も珍しく呆けたような表情で、誰にともなく尋ねた。
「あ、あのぉ……私、知っています!」
グルーピーの一人がおずおずと答えた。一年生だ。伊達ばかりでなく、グルーピーたち全員の視線を集め、彼女はたじろいだが、思い切って口にした。
「最近、転校してきた一年A組の仙月って人です! 仙月明人!」
「仙月明人……」
伊達はその転校生の名前を口の中で繰り返した。
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