【はるりんさんからのキリ番小説】
ある日曜日のお昼、公園の砂場で、佑司は、赤ちゃんの人形をだっこしながら、宏美のご飯を待っていた。
人形は佑司と宏美の赤ちゃんで、仕事から帰ってきた佑司は宏美がご飯を作っている間、赤ちゃんの世話をしているのだ。
砂をおもちゃのお皿に盛り、近くに咲いているタンポポをお茶碗にもって、宏美は佑司の前に差し出した。
「はい、パパ、ご飯出来ました。」
「ありがとう。わあ、おいしそうだなあ。」
佑司はプラスチックのお箸を持って、ご飯を食べるまねをした。
「ごちそうさま。」
「おいしかった?」
「うん、とっても。宏美ちゃんはお料理上手だね。」
「いっつもね、お母さんのお手伝いしてるのよ。」
宏美は食べ終わったお皿とお茶碗を砂で洗った。
「へえ、すごいねえ。」
「ほうちょうで野菜を切ったりできるよ。」
「僕のお母さんは、そういうの危ないからやっちゃだめっていうよ。」
「お母さんが一緒のときはいいのよ。」
お人形はいつの間にか横へ放り出されていた。佑司はもじもじと体を動かした。
「今度、宏美ちゃんが作った本物のお料理食べたいなあ。」
「いいよ。大きくなったら、作ってあげる。」
宏美と佑司は指切りげんまんした。
「そんな事 あったっけ?」
宏美は夕飯の生姜焼きを作りながら、リビングで長男のおむつを取り替える佑司に聞いた。
「覚えてない? 20年くらい昔の事だけど。」
「3歳くらいかあ。そんな事もあったかもしれないなあ。」
「昼間、子供たちがおままごとで遊んでいるのをみて、ふと思い出したんだ。僕たちも昔、そんな事があったなあって。」
宏美は炊飯器のご飯を茶碗に盛りつけ、ダイニングテーブルに並べた。
「そうしたら、そのときの約束はちゃんと果たしているわけよね。」
「そうだね、今ではこうやって毎日、タンポポと砂じゃなく、宏美が作った本物のおいしいご飯を食べてる。」
おむつを取り替え終わったので、佑司は子供をベッドへ寝かせ、テーブルについた。
「なんだか、あのときのままごとをずっとやっているみたいな感じだね。」
「本当ねえ。タンポポのご飯と、砂のおかず。お人形の赤ちゃん。お母さんの私、お父さんの佑司。全部本物になったけど、まるでおままごとやっているみたい。」
「それじゃあさあ、今夜は本物で、おままごとしようか」
「何それ。」
宏美はくすくす笑った。
「これは、タンポポのご飯、砂のおかず。宏美も僕も、3歳の子供、のつもり。」
「えー、変なのー。」
「はい、それじゃあ、タンポポのご飯いただきます。」
佑司は、げらげらと笑っている宏美をよそに、タンポポご飯のつもりの白飯を食べ始めた。
テーマは初恋ということでしたので、小さい子のお話にしました。
ほのぼのを狙ってみたんだけど、なんだかなあ〜。
2004年5月12日 はるりん