翌朝。
それは新年の始まりであった。
窓のカーテンも閉めないまま眠っていたオレは、外から差し込む日の光がまぶしく、目を細めた。どうやら、あれからずっと眠っていたらしい。オレはのろのろと布団から上半身を起こした。
まだ全身が重い感じがしたが、昨日よりは格段に気分がいい。どうやら、熱は下がったようだ。
オレは洗面と着替えをしようと、立ち上がりかけた。室内は暖房してなかったので、とても寒い。オレは身震いしながら、ストーブに火を付けた。
玄関のチャイムが鳴ったのは、ストーブに点火し終わった直後だった。誰だろう。正月の朝っぱらから、オレを訪ねてくるような者の心当たりはない。
オレはどてらを羽織ると、小走りに玄関へ出た。
「あけましておめでとうございます」
「は?」
玄関先に立っていたのは、振り袖を着た美人だった。オレの顔を見て、にっこりと微笑んでいる。知り合いではない。だが、何となく顔に見覚えがあった。
「え〜と、君は?」
「“夢”です。吉田信二さんですよね?」
彼女はオレの名前を尋ねた。
「ええ。そうですけど」
「今日からお世話になります。よろしくお願いします」
戸惑っているオレに、彼女は礼儀正しく会釈してきた。オレも思わず一礼する。
しかし、「今日からお世話になります」とは、どういうことだろう。まさか、一緒に住もうと言うのか。そりゃ、こんな美人と生活できるなら、オレは願ったりかなったりだが、一面識もない──と思われる──オレの所へいきなり来て、そんな突拍子もないことを言い出す女がまともなのか。まさか、オレには親同士が決めた許嫁がいて、それが彼女だとか言うマンガ的な展開でもあるまい。
「あのぉ〜……」
オレが色々と頭の中で考えを巡らせていると、彼女はおずおずと話しかけてきた。オレは慌てて我に返る。
「は、はい、何でしょう?」
こんなに面と向かって女性と──それもこんな美人と話した経験がないので、オレは非常に緊張していた。
「ここでお話しするのもなんですから、中に入ってもよろしいでしょうか?」
彼女に言われて初めて、オレはドアを開け放した玄関先で立ち話をしているのだと気づいた。確かに、今の状態では外の寒さが体の芯まで沁みてきそうだ。
オレはうろたえつつ、彼女を中に入れてやった。もっとも、部屋は片づけも出来ておらず、散らかり放題ではあったが。
それでも彼女はイヤな顔ひとつしなかった。むしろ、ホッとしたような様子さえ窺える。
オレと彼女は正座をして、互いに向き合うような格好になった。
「え、え〜と、君の名前はなんだっけ?」
アガリまくっているオレは、最初からの質問を繰り返した。
「“夢”です。初夢の“夢”」
ゆめ? その名前がオレの記憶に引っかかった。
所在なげに部屋を見回していたオレの視界に、昨日、くじ引きで当てたカレンダーが飛び込んできた。そう言えば!
オレはカレンダーを手にすると、表紙のページをめくって、一月の写真を見た。
「あっ!」
驚いた。一月のカレンダーでポーズを取っているのは、すぐ目の前にいる彼女──夢だった。