オレは布団で寝ながら、台所で料理をしている夢の後ろ姿をぼんやりと眺めていた。
彼女は初めて立つ台所だと言うのに、何でもてきぱきと要領よく動いて、立ち働いている。今、夢はオレのためにおかゆを作ってくれているのだ。
だが、今でも何だか信じられない。カレンダーのモデルが、オレの部屋にいるなんて。
さっき、夢がカレンダーの女性と同一人物だと気がついたとき、オレはおそらく幽霊でも見たような顔で、彼女を見つめていたに違いない。だが、夢ははにかむように笑った。
「私はそのカレンダーの持ち主に尽くすのが使命なんです」
「使命?」
「ええ。物に宿る妖精みたいなもの、と言えば、分かり易いでしょうか。ですから、私は厳密には人間ではありません」
人間じゃないなんて説明されても、そう簡単に納得できるわけがなかった。オレには、とびきりの美人に見えるばかりだ。
「信二さん。もし、ご迷惑でないのでしたら、私に身の回りのお世話をさせてください。私、何でも致します。お願いです」
畳に三つ指つくような格好で懇願されて、これを冷徹にあしらえる男が、この世にいるとしたら、お目にかかりたいものだ。かくして、彼女はオレの部屋で働き始めた。
「さあ、信二さん。おかゆ、出来ましたよ」
夢は寝ているオレの所へ土鍋を運んできた。オレは上半身を起こし、どてらを羽織る。その間に、夢は土鍋から茶碗におかゆをよそった。
正直なところ、オレはおかゆが苦手である。小さい頃、やはり熱を出したときに母親に作ってもらった記憶があるが、何だか味も素っ気もなく、食感は糊を口にしているようで、あまりのまずさに、ろくすっぽ食べなかった。中国粥なら食べられるのだが。
夢が作ったおかゆは、見た目、母親が作っていた物と同じだった。まだ、一口も口にしていないうちから、いやな記憶を思い起こす。
「さあ、どうぞ」
そうとは知らない夢は、オレにおかゆを勧めた。熱くないように、自分の口元でフーフーして冷ましてから、オレの方へレンゲを近づけてくる。
献身的な彼女の行動に対して、今さら、「おかゆはダメなんだ」とは言えなかった。オレは目をつむって、口を大きく開けた。
「あ〜ん」
夢はオレの口へおかゆを流し込んだ。こんな赤ちゃんみたいに食べさせてもらうなんて、いったい何年ぶりだろう。そんなことで、おかゆの食感をごまかそうと努めた。ところが──
「もぐもぐ……ん?」
おいしかった。母親が作ったような糊の固まりではなく、口の中でサッとほぐれ、薄口ながらも味が広がった。驚きである。しかも一口食べたことで、何だか食欲が湧いてきた気がした。
「どうですか?」
夢が尋ねる。オレは表情をほころばせながら、大きくうなずいた。
「うまいよ、夢! こんな美味しいおかゆ、初めてだ!」
「ホントですか? 良かったぁ、信二さんに気に入ってもらえて! どんどん食べて、早く元気になってくださいね」
そう言って、夢は顔をほころばせ、二口目のおかゆを勧めてきた。