←前頁]  [RED文庫]  [新・読書感想文]  [次頁→



カレンダー・ガール

−4−

 こうして、オレと夢の同居生活は始まった。
 夢は家事全般を何でもこなした。夢のおかげで、アパートの部屋はきれいになり、洗濯物もたまることがなくなった。それ以上に、オレが感謝したいのは手料理だ。今までは、コンビニから買ってきた弁当やインスタント食品ばかりだったが、夢はオレの好みを知っているかのように、色々な料理を作ってくれた。もちろん、栄養のバランスもばっちりである。
 一人暮らしから二人暮らしになって、多少、生活費がかかるようになったが、オレは夢といられさえすれば、他に何も望まなかった。今までは、服が欲しいだの、遊びに行きたいだの、お金を使うことばかり考えていたが、夢と一緒に暮らすようになってから、大学とバイトへ行くとき以外はアパートで過ごすようになり、二人の時間を大切にした。
 オレは夢に何もしてやれなかったが、それでも彼女は不平不満を言うことなく、献身的に尽くしてくれた。そんな彼女がいとおしかった。
 若い男女が同じ屋根の下で二人きりで住めば、次第に互いの距離も近づいていくものだ。オレたちは自然と深い仲になった。何しろ、部屋にある布団はひとつだけなのである。オレの風邪が治った元旦の翌日から、愛し合うようになった。
 一人暮らしでは決して味わうことが出来なかった楽しい毎日を、オレは送ることが出来た。だが、その生活にいきなり終わりが訪れるとは。
 その夜、食事を終えたオレは、夢に膝枕をしてもらいながら、テレビを見ていた。
 そのとき、夢がぽつりと言った。
「信二さん、今夜でお別れです」
「え?」
 オレは仰向けの格好になって、夢の顔を見上げた。その表情は今にも泣き出しそうだ。そんな彼女を見るのは初めてである。
 オレは起きあがって、夢の肩に手をやった。
「どういうことだい、夢」
「ごめんなさい。本当は昨日のうちにお知らせしようと思ったんですけど、つい、言い出せなくて……」
「そんなことはいい。でも、どうして、何で、お別れなんだ?」
「今日は一月三十一日です」
 夢の言葉に、オレはカレンダーを見た。夢が写ったカレンダーを。
「私は一月の女。一月が終われば、信二さんの元から去らねばなりません」
「そんな!」
 オレは愕然とした。夢がオレの前からいなくなってしまうなんて。
「イヤだ! 夢、行かないでくれ!」
 オレは懇願した。恥も外聞もなく、涙を流して。
 夢も泣いていた。だが、首を横に振る。
「無理です。これが宿命<さだめ>なのです」
 オレは夢を抱いた。彼女を失いたくない。夢は本当の人間ではなく、カレンダーの妖精みたいなものだと言っていたが、そんなことは関係なかった。オレは夢を心の底から愛している!
「夢!」
「信二さん! お願いです。今夜はいっぱい私を愛してください。そして、私のことを忘れないで」
「忘れるもんか! 忘れないよ、夢!」
 オレはそのまま夢を押し倒し、唇を重ねた。夢が熱い吐息を漏らす。
 その夜、二人はかつてないほどに激しく愛し合った……。


<次頁へ>


←前頁]  [RED文庫]  [新・読書感想文]  [次頁→