いつの間に眠ってしまったのだろう。
気がつくと、オレは布団の中で寝ていた。
狭い部屋を見渡したが、夢の姿はない。いつもなら、台所に立って、朝食の準備をしている頃だ。
夢は行ってしまったのだ。
オレは寒々とした部屋の真ん中で、しばらくぼんやりとしていた。何をする気も起きない虚無感が、オレを押し潰そうとする。
ようやく布団から立ち上がったのは、それからどれくらいしてからか。
今日はバイトへ行く日だ。そろそろアパートを出ないと遅刻してしまう。
オレはのろのろと洗面所へ向かおうとした。
その視界の片隅に、あのカレンダーが見えた。夢がこちらに微笑んでいるカレンダーが。
オレはそのカレンダーの前に立った。
今日から二月である。一月は終わってしまった。
オレはカレンダーの一月分を破り取った。そして、手にした一月分のカレンダー──夢の写真の上に、一滴の雫が落ちる。
「夢……」
それはオレの涙だった。
オレは泣いた。これほど別れがつらいものだとは思わなかった。
そのまま、その場に崩れるようにして、オレはむせび泣いた。
そんなとき、玄関のチャイムが鳴った。
オレは構わず、泣き続けた。だが、訪問者はしつこく玄関のチャイムを鳴らし続ける。
一体誰だ、こんなときに。段々、悲しみは腹立たしさに変わっていった。
何十回目かのチャイムが鳴らされたとき、ようやくオレは玄関へ出て行った。
「しつこいな! 誰だよ!?」
オレは相手も確認せず、怒声を浴びせた。
しかし、その訪問者は、オレの対応に少しも動じず、むしろ、はにかんだ笑顔を見せて、頭を下げた。
「こんにちは」
そこにいたのは、純白のふわふわしたコートとおそろいの帽子、そして真っ赤なマフラーをした、可愛い女の子だった。特に目を引いたのは、その肌の白さだ。透けるような白さとは、彼女のような肌を表現するのだろう。
オレは何だかデジャヴーを見ているような気がした。
彼女はこう名乗った。
「私は“雪”です。吉田信二さんですよね? 今日からお世話になります」
それはカレンダーの二月に写っている少女だった。