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カレンダー・ガール

−6−

 それからというもの、毎月、カレンダーの女性たちが入れ替わりにオレのアパートを訪れ、世の男たちがうらやむほどの素晴らしい生活を送ることが出来た。
 とにかくカレンダーの女性たちは、皆、美人であったり可愛い女の子だったりして、オレにはもったいないくらいだった。しかも彼女たちは、容姿と同様に、それぞれの性格も異なっていたが、唯一、誰よりもオレを大事にしてくれるところは一致しており、その熱烈なる愛情を常に感じることが出来た。その上、一月の夢と同様に、皆、家事は何でもやってくれたし、男女の深い関係にも必ず進展するのだから、言うことなしだ。
 もちろん、オレだって彼女たちを心より愛し、大事にしてきたつもりだ。だから、毎月、最後の日になると、一緒に過ごしてきた彼女たちと別れるのは本当につらかった。いくら次の月には新しい女性が来ると言ってもだ。
 それに、まるでハーレムの王様のような気分を満喫していても、決して、堕落した生活を送っていたわけではない。大学の講義はちゃんと行ったし、アルバイトだって精力的にこなした。きっと、彼女たちの存在がオレを励まし、力を与えてくれたのだと思う。自分で言うのもなんだが、理想の結婚が出来れば、オレは良き夫を務める自信があった。
 こうして、毎日が瞬く間に過ぎていった。
 一月は“夢”。振り袖が似合う、古風な日本美人。
 二月は“雪”。その名のごとく肌の白い、はかなげな少女。
 三月は“雛”。まだ幼さの残る、おさげ髪の愛らしい少女。
 四月は“桜”。青春時代から抜け出してきたような女子高生。
 五月は“葵”。活発で、ボーイッシュな女の子。
 六月は“純”。良家のお嬢様を思わせる可憐な美少女。
 七月は“夕”。長身でスレンダーな肢体のレースクイーン。
 八月は“祭”。真っ黒に日焼けしたナイスバディな夏娘。
 九月は“蛍”。思わず守ってやりたくなる妹のような少女。
 十月は“茜”。幼なじみのような気さくさを持った同世代の女の子。
 十一月は“遥”。包容感あふれる姉のような美しいひと。
 そして、十二月は“愛”。その笑顔に誰もが幸せを感じられるアイドル風の美少女。
 オレは一年で、十二人の女性たちを愛してきた。その毎日は、とても充実しており、一人の男としても大きく成長できたと思う。
 だが──
 オレは布団の中で愛を抱きしめながら、考え事をしていた。
「信二さん、どうしたんですか?」
 オレの顔を見て、愛が尋ねた。怖い顔でもしていたのかも知れない。オレは愛を心配させてしまったのを申し訳なく思い、笑顔を作った。
「ごめん。もうすぐ、愛とも別れなくてはいけないと思っていたら……」
 今日は十二月三十日。いや、もう午前零時を過ぎたから、三十一日だ。年が明けてしまえば、愛とも別れなくてはならない。
 愛はオレの胸へ顔を寄せてきた。
「私も信二さんとお別れするのはイヤです。でも……」
「分かっている。別に愛が悪いわけじゃないんだ。自分を責めることはないよ」
 そうは言いながらも、オレはこの一年が終わってしまうことを憂慮していた。
 確かに、オレはこの一年で一人前の男に成長したと思う。今のオレなら自信を持って、新しく本当の彼女を作ることも出来るだろう。しかし、現実社会の女性たちがオレをどんな風に愛してくれるか、それを考えると不安だった。夢や愛たちは、オレに対して献身的に尽くしてくれた。一緒に暮らして、オレがどんなにだらしなく、身勝手でも、彼女たちはそれを快く許し、なおかつ愛情を注いでくれたのだ。そんなことが現実社会の女性たちに出来るだろうか。多分、無理だと思う。一人の人間として生きている以上、どんなに愛している相手に対しても、絶対に譲れない部分が出てくるはずだ。そのとき、オレは現実の女たちに失望するだろう。
 オレが考えていることは、非常に自分勝手だとは思う。しかし、男の理想とも言えるカレンダーの女性たちと一年間、過ごしてきたオレに、いまさら現実の女性たちと交際しろというのは難しい相談だった。
 どうにかして、今の生活を続けることは出来ないだろうか。オレはあがくように、必死に考えた。


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