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WILD BLOOD

第1話 真夜中の出会い

−7−

 つかさとアキトは、日が落ちた通学路を並んで歩いていた。
 大神が連続抱きつき魔かも知れない。もちろん、まだそうだと決まったわけではないが、怪しさは充分だ。どのような女性が被害者になったのか、新聞などからの情報では分かるはずもなかったが、あの部室から発見された女性の写真は、皆、美人ばかり。そのような推測を立てても無理からぬところだろう。
 つかさは同級生が犯人かも知れないと言うことに、少なからずショックを覚えていた。
「今夜は満月か」
 アキトが夜空を見上げて言う。やはり吸血鬼。昼間より夜の方がいいのだろうか。
「とにかく、大神くんに確かめてみないと」
 つかさはそんな月を眺めている暇などなかった。結局、あれから校内を探したが、大神の姿はなく、その後の足取りもつかめなかったのだ。
「ヤツなら今夜、動くさ」
 アキトは自信ありげに言った。「それより、ヤツの次のターゲットが気になる」
 それはつかさも同じだった。もし大神が犯人ならば止めなければならない。
「あいつ、道場で写真を撮っていたな」
 アキトの呟きに、つかさはハッとした。あのとき道場にいたのは──。つかさの脳裏に、親しい女子生徒の顔が浮かんだ。
「ま、まさか……。薫を狙ったって、返り討ちにあうのがオチじゃないかな」
 つかさは自分を安心させるように軽口を叩いた。あの男勝りの薫なら、まず相手を半殺しにするに違いない。アキトだって、それは先ほど身をもって知っているはずだ。だが──
「人間なら、あの処女剣士に勝ち目はないだろうよ」
 アキトはあくまでも意味深だ。つかさは気になってしょうがない。
「人間ならって、どういう意味なの?」
「オレの鼻は処女を嗅ぎ分けるだけじゃないぜ」
 そんなことをクソ真面目に言う。「道場で見かけたとき、あいつから人間のニオイはしなかった」
 つかさは目を見開いて、アキトの顔を見た。つい横に並んで会話なんかしていると忘れそうになるが、アキトも人間ではないのだ。
「それってさぁ、それって、もしかして……」
「ああ、オレがさっきから『イヌ臭え』って言ってただろ?」
 つかさはゴクリと喉を鳴らした。さすがの薫も人間じゃないヤツを相手に出来るのか?
 薫が襲われるシーンを思い描いた刹那だった。
「キャアアアッ!」
 絹を裂くような女の悲鳴。
「ヤツか!?」
 アキトの眼が爛々と輝いた。
 彼は吸血鬼。血を欲す者。それは戦いの血でもあるのかも知れない。
 アキトは風に鼻をヒクつかせた。
「イヌ臭え! ──こっちだ!」
 アキトは疾走を始めた。風を切るという表現が似つかわしい。つかさも全速力で追ったが、置き去りにされそうだった。
 だが、どうやら現場が近くで助かった。二百メートルと走らないうちに、アキトの足が止まった。
「やいやいやいやいっ! イヌっころぉ! とうとう尻尾をつかまえたぜ!」
 アキトが威勢良く啖呵を切る!
 その視線の先には、セーラー服姿の女子高生を後ろから抱きすくめた大神がいた。
 つかさはその女子高生が薫ではないかと思ったが、幸いにも違った。名前は知らないが、やはり剣道部の一年生である。
「大神くん、どうしてこんなことを!?」
 つかさは大神に問うた。これ以上、罪を重ねて欲しくなかった。
 だが、大神は女子高生を抱きすくめたまま、笑っていた。そして、女子高生のうなじに顔を寄せ、匂いを嗅ぐ。
「う〜ん、いい匂いだ。この匂いがたまらない」
 大神の表情は恍惚にゆるんだ。女子高生は嫌悪と恐怖に震えている。
「もう、写真だけじゃ満足できないんだよ。やっぱり女の子はナマで感じないとね」
 まるで変質者のようだった。いや、そのものか。
「いい趣味してるじゃねえか、イヌっころ」
 アキトもニッと笑う。だが、それは残忍な笑みだ。吸血鬼のそれだ。
「彼女を放しな。オレがギタギタに刻んでやるぜ!」
 アキトの右手がバキバキッと鳴った。そして、顔の前で指を開く。
「クックックックッ、人間が粋がると長生きできないぜ」
 そう言うや否や、大神の身体に変化が生じた。全身が膨れ上がったかのように見えた刹那、着ていた学校の制服が破け、灰色の体毛が生え始めたのだ!
 毛は全身から伸び、顔を覆い、耳が尖り始めた。さらに鼻と口が盛り上がり、剥き出された歯が鋭い牙と化した。特撮を使った映画で見たことのある光景が、今まさに、目の前で起こっていた。

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