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WILD BLOOD

第1話 真夜中の出会い

−9−

 翌朝。
 昨晩の血生臭い出来事が原因で、つかさは食事も喉を通らず、げんなりしていた。通学路を歩く足下がおぼつかない。
 大神は──とりあえず、殺されずに済んだ(笑)。と言うよりは、やはり満月の狼男、少しくらい(?)痛めつけられても、すぐに回復したのである。はらわたまでえぐり出そうとするアキトを見て、さすがにつかさも気絶しかけたのだが、大神がこれ以上、女性たちを襲わないことを条件に、アキトも許してやることにした。大神は泣いて感謝し、以後はアキトの舎弟になることを約束した。アキトは「イヌ臭えからヤダ!」と嫌がっていたが、それをつかさが取りなし、丸く収めた。
 さて、大神を見逃してやるとなると、襲われた女性たちのケアもしてやらねばならない。
 アキトは催眠術を利用した精神操作を被害者に施し、襲われた恐怖の記憶を消しておくと自分から言い出した。なんともご都合的な術を持っているものだとつかさは呆れ返ったが、ここは本物の吸血鬼に事後処理を任せた方がいいだろうと言うことで、了承。アキトはその場で気絶していた女子生徒に術を施した後、つかさと別れ、被害者たちの自宅や入院先を知っている大神を伴い(彼はターゲットにした女性のことは何でも調べ上げているのだ!)、去って行った。
「おはよ、つかさ!」
 元気な声が後ろから響き、同時に背中をバシッと叩かれた。
「てっ! か、薫ぅ〜」
 苦痛に顔を歪ませ、つかさは薫を振り返った。
「な〜によ、また朝から景気の悪い顔で」
「いいから、ほっといてよ」
 何も知らず元気そうな笑顔を向けてくる彼女を見ていると、夕べ、少しでも薫の身を案じた自分がバカバカしく思えた。やはり彼女なら、狼男も撃退してしまっていたのではないだろうか。
「もお、男なんだからシャキッとしなさいよね」
「分かってるよ、もお」
 いつものお節介な薫に辟易しながら、つかさは周囲の目を気にして、歩を早めた。
 するとその前に立ち塞がる人影……。
「よぉ、ご両人!」
「なっ……!」
「げっ!?」
 つかさと薫は同時に立ち止まり、のけぞった。
 その人影は、説明するまでもなくアキトであった。それも、つかさと同じ琳昭館高校の制服を着て。
「転校生の仙月明人で〜す。アキトでいいぜ! よろしく!」
「………」
 どうやら厄介な吸血鬼に目をつけられてしまったようだった。つかさと薫は顔を見合わせ、深くため息をついた。

<第1話おわり>

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