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WILD BLOOD

第2話 ボクは男だ!

−4−

 昼休みの屋上。
 真っ青な空を一筋の飛行機雲がたなびいていた。
 その空を見上げているのは、琳昭館高校屋上のフェンスの真上に立ったアキトだ。わずかな足場にも関わらず、その身体は揺らぐことはない。吸血鬼<ヴァンパイア>の身の軽さが成し得る技だが、普通の人間が見たら飛び降り自殺寸前かと卒倒するだろう。それにしても、これほどの強い陽光を浴びて、ズボンのポケットに手を突っ込み、平然と立っていられる吸血鬼<ヴァンパイア>というのも珍しい。
 幸い、人気のない屋上へやって来たのは、アキトの正体を知る数少ない人物、写真部の大神憲だった。もっとも、その大神にしても人間ではないのだが(こちらも「WILD BLOOD」の第1話を参照)。
「兄貴、何かご用で?」
 大神はアキトを眩しく見上げた。あまりの暑さに、イヌのように舌を出して、ハアハアと呼吸する。
 アキトはフェンスの上に立ったまま振り向きもせず、
「イヌ、空手部の坂田って知ってるか?」
 と尋ねた。
 大神は尻ポケットから生徒手帳を取り出した。
「この学校の人間のことなら、すべて調べてますよ。もちろん、女子の方がデータが揃っていますけどね。──えーと、坂田、坂田っと──あった、あった。坂田欣時。三年C組、空手部副主将。ですが、それよりも学校の内外で暴力沙汰の問題を起こしていることの方が、有名みたいですね。町のチンピラ相手に大立ち回りもしたようです。性格は極めて残忍で攻撃的。琳昭館高校のブラックリストに名を連ねています」
「そんなヤツが空手部の副主将かよ」
「実力は空手部でナンバー2らしいですからね」
「ナンバー2? ナンバー1はどうした?」
「空手部の主将ですね。三年A組の間大作<はざま・だいさく>という男なんですが、夏休みを利用して出掛けたアメリカ武者修行の旅から、まだ戻ってきてないみたいです」
「今どき武者修行? ストリート・ファイターでも目指しているのか?」
「実力は坂田よりも数段上。しかも周囲からの人望も厚い好人物のようですね。坂田を空手部に誘ったのも、間だったみたいです。問題児だった坂田を自らの手で更生させるためだったというのが、もっぱらの噂みたいですけど」
「チッ、何が更生だ。自分はアメリカへ行っちまって、放棄してるも同然じゃねえか」
 アキトは毒づいてから、しばらく黙り込んだ。大神が「兄貴?」と見上げる。
「しゃあねえな。やっぱり、オレが何とかしてやらなくちゃな」
「?」
「イヌ、ありがとうよ。また、頼むぜ」
 アキトは大神に礼を言うと、ズボンのポケットに手を突っ込んだまま、屋上のフェンスから地表に飛び降りた。

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