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WILD BLOOD

第3話 嵐を呼ぶテニスコート

−3−

「し、失礼します」
 女子生徒は生徒会室の扉を開けた。
 中は昼間だというのに、窓はカーテンで閉ざされており、明るい廊下から一歩足を踏み入れると真っ暗であった。女子生徒は入口で目が慣れるまで立ち止まっていたが、室内に気配を感じて、誰なのかを窺う。
「扉を閉めて、入っておいで」
 そんな不安げな女子生徒に、先に生徒会室に来ていた人物が声を掛けた。女子生徒はその声に聞き覚えがあったのだろう。うなずくと、言われたとおりに扉を閉めた。
「怖がらないでいいよ。さあ、こっちへ」
 声は女子生徒を招いた。女子生徒の目が段々と暗闇に慣れてくる。
「先輩……」
 暗い生徒会室にいたのは、生徒会長の伊達修造だった。やって来た女子生徒に優しい微笑みを向けている。
「キミは確か一年生の……アケミくんだったかな?」
「は、ハイ! 先輩、私の名前を憶えていてくれたんですね! 感激です!」
 アケミは感極まったように喜んだ。伊達は笑顔を絶やさない。
「当たり前じゃないか。キミみたいな可愛いコ、忘れるはずがないよ」
「そんな……」
 伊達の言葉に、アケミは頬を染めた。
「ところで、ボクに何か用なのかな?」
「あっ、ハイ! あのぉ……先輩のためにお弁当を作ってきたんです! 良かったら食べてください!」
 アケミは持ってきた弁当箱を伊達に差し出した。
 伊達にとって、こういうことは珍しくない。むしろ、毎日、何人もの女子高生が手作りの弁当を持ってきて、断るのに苦労するほどだ。だから伊達は昼休みになると、生徒会室やテニス部の部室へ避難することにしている。だが、アケミはうまく伊達の居場所を嗅ぎつけたようだ。
「ボクのために作ってくれたの?」
 伊達はアケミの方へ近づいた。
「ハイ! 先輩に食べてもらいたくて……」
 アケミは体をモジモジさせるようにして言った。そんなアケミを伊達は可愛いと思ったのだろうか。
「ありがとう」
 そう言って、伊達は手を伸ばした。だが──
「あっ……!」
 伊達がつかんだのは、弁当箱ではなく、アケミの手だった。
「アケミくん……」
「先輩……」
 伊達はそのままアケミの身体を引き寄せた。アケミは全身の力が抜けたようになり、されるがままだ。伊達は弁当箱をアケミの手から取り上げると机の上に置き、代わりにアケミの細い腰を抱いた。そして、アケミの瞳をジッと見つめた後、ゆっくりと唇を重ねていく。
「んっ……」
 アケミはまったく抵抗しなかった。むしろ積極的に舌を絡めていく。その勢いで、伊達は後ろの机に座るような格好になった。
 たっぷり一分はキスしていただろう。ようやく伊達の方から唇を離した。アケミの方はと言えば、目がトロンとなっている。
「好きです、先輩……」
「アケミくん……」
「私を……先輩の好きにしてください……」
「いいのかい?」
「先輩になら……あげてもいいです……」
 再び伊達はアケミの唇を奪った。暗い生徒会室の中で、男女の荒い息遣いだけが聞こえ始める。

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