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そんな情事を外から覗いている者がいた。
写真部の大神憲だ。大神は手に暗視フィルターを取り付けたカメラを持ちながら、わずかながら出来たカーテンの隙間から、伊達とアケミの濃厚なラブ・シーンの撮影を試みていた。
大神は室内を覗きながら、興奮のあまり舌を出して、ハアハアと小さく喘いでいた。きっと尻尾があれば、イヌのように振っていたことだろう。それほど中のラブ・シーンは過激さを増していた。
「何してんだ、お前」
その大神に声を掛けてきたのは、昼休み、たまたま外をぷらぷらしていたアキトだった。口には袋に入ったアンパンをくわえている。昼飯のつもりなのだろう。
「兄貴!?」
大神はヤバいところを見つかったと、バツの悪い顔になった。
「何をそんなにビビッているんだ?」
「しーっ!」
大神は慌てた様子で、人差し指を唇に当てた。アキトが怪訝な顔をする。だが、すぐに何か思い当たったのか、表情は喜色満面の笑みを作った。
「イヌ、お前もつくづくワルよのお。女子の着替えを盗撮するなんて」
うっしっし、と笑いながら、アキトは大神のそばへ小走りになって近づいた。大神はまだ声が大きいと、しきりに歯をむき出しにする。
「そんなんじゃありませんよ。もっと凄い場面なんですから」
「もっと凄い? どれ、オレにも見せろ」
「ちょ、ちょっと兄貴!」
カーテンの隙間は細い。そのため、アキトは大神にのしかかるような格好で、中を覗いた。お陰で大神はアキトの重みに耐えなくてはならなくなった。
明るい外から暗い室内の出来事を見ることは、普通、困難である。しかし、アキトは吸血鬼<ヴァンパイア>。漆黒の闇の中でも通常と何ら変わることなく見通すことが出来た。その目が、中の情事を目の当たりにして、大きく見開かれる。
「おおっ!」
思わず声を上げたアキトの口を、大神は慌てて塞がなくてはならなかった。
「兄貴、気づかれちまいますよ!」
「分かってるよ! ──にしても、すげえな」
さすがのアキトも、ゴクリと喉を鳴らした。
「でしょ? あの調子じゃ、最後までやるつもりじゃないですかねえ」
「だな」
アキトは窓ガラスに顔面を貼りつかせるようにして、中を覗いた。
「ところで兄貴、武藤くんと離れて行動するなんて珍しいですね」
なんとかアキトをどかそうと苦闘しながら、大神が尋ねた。
「ああ。つかさは今、保健室で寝てるんだ」
答えながらも、頑として動かないアキト。
「保健室? 具合でも悪いんで?」
潰されそうになりながら、大神は必死に耐える。
「ああ。さっきの体育の時間、整列中に貧血で倒れたんだ。あいつ、どうも最近、空手部で張り切っているようだから、それで疲れが出たんじゃないか?」
元々、つかさは体格が大きい方ではないし、体力も劣る。古武道という人にはない技を身につけてはいるが、その中身はまだ伴っていないと言うのが現状だ。いきなりハードな練習を積んでもバテるだけである。少しずつ、練習量を増やすべきであった。アキトもそれを忠告するために、今朝、道場に押し掛けたわけだが、一生懸命に頑張っているつかさの姿を見ると、その言葉を呑み込んでしまうのだった。
「まあ、放課後まで寝てれば、元気になるだろう」
「兄貴も気苦労が絶えませんねえ」
大神はアキトにのしかかられたまま、再びカメラを構えた。
「まあ、恋人に掛けられる苦労なんざ、どうってことないさ」
アキトは臆面もなく言ってのけた。
「──しかし、それにしても真っ昼間から学校でこんなことをしてるとは……」
再びアキトの注意は、生徒会室の中に向けられた。
「前から噂はあったんですよ。伊達が生徒会室やテニス部の部室に女の子を連れ込んで、ヤってるんじゃないかって」
そう言いながら、シャッターを押す大神。
「何者だ、あいつ?」
「知らないんですか? 伊達修造。本校の生徒会長にして、元テニス部のエース。おまけに成績は学年トップ、なおかつ、あのルックスの良さで、女子たちから人気が高いんです」
「へえ。で、裏では女を取っ換え引っ換えして、楽しんでいるってわけか」
「ええ。でも、まあ、オレでもあれだけモテれば、同じことをするでしょうがね」
「違いねえ」
アキトと大神に覗かれているとも知らずに、伊達とアケミの絡みは続いていた。
「ああっ、先輩! 私、初めてなの……お願い……優しくして」
「分かっているよ。行くよ、アケミ」
二人が燃え上がりかけた刹那──
突然、生徒会室の扉が開き、室内の照明がつけられた。着衣の乱れた二人の姿が露わになる。
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