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「キャッ!」
アケミは慌てて、裾をまくり上げられたスカートを直し、伊達もはだけたシャツの前を急いで合わせながら、机から焦ったように立ち上がった。
「あら」
生徒会室へやって来たのは、琳昭館高校一の美少女と謳われている、二年生の待田沙也加だった。伊達とアケミの様子に、少し怪訝な表情をしたが、あまり驚いた様子は見られない。むしろ慌てたのは伊達たちの方で、アケミなどは腕で胸元を隠すようにして、「失礼します!」と逃げるように出て行ってしまった。その間に、伊達は精一杯の体裁を整える。
「や、やあ、待田くん。昼休みにここへ、何の用だい?」
いつも二枚目を気取っている伊達が、ここまで狼狽するのは珍しいはずだが、沙也加は何も見なかったかのように、普通の態度を崩さなかった。
「放課後、プリントする原稿を、もう一度、チェックしておきたいと思ったので」
そう言って、沙也加は書類棚にしまっていた一枚の原稿を手にした。
「そ、そうか。いつもながら仕事熱心だね」
普段のペースを取り戻そうと、伊達は必死であった。あれだけ熱かった汗は、冷や汗に変わっている。
しかし、沙也加はそれを笑うことも、軽蔑することもしなかった。
「これでも生徒会副会長なので」
「そうだね。ボクも、キミがサポートしてくれると助かるよ」
伊達は甘いマスクを沙也加に向けながら、頭を振って、前髪を払った。伊達、お得意のポーズだ。
「それでは、私はこれで失礼します」
沙也加は、他の女子たちの多くが伊達になびく中、ごく当たり前な先輩後輩の関係を崩さなかった。過去、伊達からモーションを掛けたことは何度もあるのだが、まったく乗ってくる気配はなく、伊達のプライドをいたく傷つける一人なのだ。学校一の美少女を落とせないとは、伊達修造の名がすたる。
「あー、待田くん」
行きかける沙也加を伊達は呼び止めた。必要以上に接近する。
「何ですか、先輩?」
沙也加は警戒することなく、振り返った。
「入ってきたとき、キミが見たことは忘れて欲しいんだが……」
もし、沙也加の口からアケミのことを喋られたりしたら、伊達のグルーピーたちは大騒ぎになだろう。いや、そればかりか、これまでアケミと同様に手をつけた女子たちが、自分だけが愛されていたのではないと知れば、伊達の人気は失墜してしまうに違いない。そうなれば身の破滅だ。
伊達の言いたいことは、沙也加にも分かったのだろう。ためらうことなくうなずいた。
「大丈夫です。他の人に喋ったりしません。だって先輩は、あのコと同意の上でしていたのでしょう?」
「あ、ああ」
一瞬、言葉に詰まったが、伊達はうなずいた。だが、それは沙也加を口説く口実を失わせていることにもなる。
「ならば、他人の恋愛に私が口を挟む必要はありませんから。──でも、今度からは校内でなく、他の所でなさった方がいいと思います。どこに他の人の目があるか分かりませんから」
沙也加は退室間際、チラリと窓の方を見やった。そこで初めて、伊達は生徒会室を覗いている目に気がついた。
「そこで何をしている!」
伊達は素早くカーテンを開放し、窓を開けた。そこにはアキトと大神が。
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