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WILD BLOOD

第3話 嵐を呼ぶテニスコート

−7−

 薫は今にも伊達に殴りかからんとしているアキトを睨みつけた。
「何してんのよ、アンタ!」
「何してるって、お前、この野郎がイヌをよお──」
「どうせ、アンタたちがロクでもないことをしでかしたんでしょ?」
 有無を言わさぬ薫の迫力。
「……それにしても、どうして昼休みに竹刀を持って歩き回っているんだ、お前は?」
 セーラー服を着たまま竹刀を肩に担いでいる薫に、当然の疑問をアキトはぶつけた。
「そんなの私の勝手でしょ」
 それはそうかも知れませんが(苦笑)。
 救いの女神出現に、伊達は益々、余裕の態度を取り戻した。
「やあ、忍足くん。彼らを知っているのかい?」
「はい。恥ずかしながら、こっちのバカは同じクラスなんです」
 バカ呼ばわりされて、一瞬、ムカついた表情をしたアキトだったが、吸血鬼<ヴァンパイア>さえ恐れさせる薫の剣技の前に、とりあえず黙るしかなかった。
「そうか。いや、彼らに妙な因縁をつけられてね、困っていたところなんだ」
「何だとぉ!?」
 伊達の言葉に、アキトはまたしても殴りかかろうとした。だが、目の前に薫の竹刀が突き出され、思いとどまる。
「すみません、先輩。このバカには私の方から言って聞かせますので」
 薫はアキトの代わりに謝罪した。それが余計にアキトの怒りを煽る。
「おい、薫! どうして、こんなヤツに謝らなきゃいけねえんだ!」
 そんなアキトに薫は、伊達に聞こえないよう耳打ちするようにして、
「アンタ、バカ!? ここで伊達先輩を殴ってケガなんかさせたら、学校の約半分を敵に回すことになるわよ!」
 と、忠告した。
 学校の約半分。それは伊達に入れ込んでいる、ほとんどの女子のことを意味していた。
「………」
 さすがのアキトも、校内の女子を敵に回してケンカをするわけにはいかない。だが、このままでは腹の虫もおさまらなかった。
「……ケンカじゃなければいいんだろ?」
「?」
 アキトは伊達が持つラケットを睨みつけた。
「よし! ならば、テニスで正々堂々と勝負だ!」
 アキトは人差し指を、ビシッと伊達に突きつけた。う〜む、お約束的な展開。
「テニスで勝負? このボクとかい?」
 伊達はせせら笑った。曲がりなりにも伊達は全国ベスト8。生半可な経験者では太刀打ちできるわけがない。
「ちょっと、アンタ、テニスしたことあるの!?」
 薫はムダと思いつつ、アキトに尋ねた。それに対して、アキトは、
「ない」
 即答。
「………」
 薫は頭痛を覚えた。
 だが、アキトは引かない。引くわけがない。
 そんな無謀なチャレンジを伊達は余裕の笑みで受けた。
「よし、いいだろう。キミの挑戦を受けようじゃないか。では、今日の放課後、学校のテニスコートで。悪いが、ボクは手加減しないよ」
「上等だ!」
「フフ、威勢だけはあるようだ。一応、名前を聞いておこうか」
「仙月明人。アキトだ」
「ボクは伊達修造。じゃあ、放課後に」
 アキトは伊達をねめつけながら、倒れている大神を担ぎ上げると、校舎の方へと戻っていった。

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