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その場には伊達と薫だけが残された。その薫に、伊達が改めて向き直る。
「忍足くん、ありがとう。キミが間に入ってくれなければ、今頃、どうなっていたことやら」
「いえ。私はたまたま通りかかっただけで……」
そう言う薫の頬が赤らんだ。伊達を直視できないように、視線を逸らす。
伊達は薫の反応が意外だった。
薫は琳昭館高校の中でも一、二を争うほどの美少女だが、剣道部で活躍しているように、男勝りな一面が強く、これまで伊達のモーションに引っかかってこなかった女子の一人である。待田沙也加同様、そのことは伊達のプライドを傷つけていた(二人の美少女に相手にされないようでは、伊達の人気も大したことない?)。
ところが、今見せた反応はどうだ。薫は明らかに伊達を必要以上に意識したように思える。
(ようやくボクの魅力に気づいたかな?)
伊達がそう考えたのは、自意識過剰な部分もあっただろう。こういうことは察しがいい。そして、これは千載一遇のチャンスだった。
「あ、あの、私、失礼します!」
薫はその場から逃げるように踵を返した。伊達は慌てて、その後を追おうとする。
「待って、忍足くん」
伊達は引き止めるべく、薫の腕をつかもうとした。すると、おもむろに薫が振り向き、竹刀の一撃が飛んでくる。
パシッ!
それは避けることもままならないほど鋭い一撃だった。薫の竹刀が伊達の顔面にヒットする!
「きゃあっ! ごめんなさい!」
いきなり叩いておいて、薫は驚いたように謝った。
伊達は目の前に星が飛び散ったが、その場に倒れる醜態はさらさず、何とか踏みとどまって、鼻を押さえた。その指の間から血がどくどくと流れる。
「ふぇ、ふぇ、ふぇ〜き(平気)だよ、これくらい……気にしないで……」
そう言う伊達は涙目になっている。
薫は申し訳なさそうに、ハンカチを手渡した。
「ごめんなさい! 私、男の人に背後に立たれると、反射的に攻撃しちゃうクセがあるんです!」
おいおい(汗)。
「ふ、ふぁふぁふぁ、まるでゴルゴ13みたいだね……」
伊達は乾いた笑いで、薫に心配させまいとする。だが、鼻からの出血は止まらない。
伊達はよろめきながら、校舎の方へ歩き出した。
「じゃあ、ボクはこれで……」
「先輩、私に何か用だったんじゃ?」
竹刀を持ったまま近寄ろうとする薫を制して、伊達は力なく笑った。
「い、いや、もういいんだ。気にしないで」
また無闇に近づいて、反射的にでも竹刀を振り下ろされてはたまったものではない。あきらめよう。薫をモノにする前に、こちらの命がいくつあっても足りない。
だが、こちらを恥ずかしげな表情で見送ってくれる薫を見ていると、すぐに欲望がもたげてくる伊達であった。見た目はメチャメチャ可愛いんだけどなあ。ああ、もったいない。
そんな伊達の姿がようやく校舎へ消えてから、薫は顔を真っ赤にさせながら呟いた。
「……もお、先輩のズボンのファスナー、全開なんだもんなあ。でも、やっぱり、教えてあげた方がよかったかしら?」
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