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「えーっ、伊達さんがアキトとテニスの試合!?」
授業が終わってから保健室へ顔を出した薫から話の一部始終を聞いて、つかさはこうしちゃいられないとばかりにベッドから起き出した。結局、午後の授業の間も保健室で寝ていたお陰で、体調は完全に戻っている。
「どうして、また、そんなことに?」
つかさは薫に尋ねたが、小首を傾げるばかり。
「さあ、あのバカのすることなんか考えたくもないわ」
あんまりなお言葉(苦笑)。
「まったく、この前の空手部への殴り込みといい、いつも騒動ばかり起こすんだから」
つかさはまた具合が悪くなりそうだった。まだ体操着のままだったが、着替えている暇はない。つかさはテニスコートに向かった。薫も付き添う。
テニスコートは黒山の人だかりで、試合がどうなっているかさっぱり分からなかった。そのほとんどが伊達のグルーピーたちで、声援を送り続けている。
「ちょっとすみせん。通してください」
つかさはグルーピーたちをかき分けるようにして、テニスコートを取り囲むフェンスに辿り着いた。
「!」
試合は第6ゲームに進んでいた。もちろん、これまでの5ゲームはすべて伊達が制している。さらに言えば、アキトはまだ1ポイントも取れておらず、対する伊達はマッチ・ポイントを迎えていた。
散々な試合だった。アキトのサーブはなかなか決められず、たまに入っても、伊達が打ち返してきたボールを相手コートに返せない。どうしてもアキトが打ったボールは力みのせいか高くなり、アウトを繰り返してしまうのだ。
それでも伊達のボールに追いつくアキトのスピードに、すべてのギャラリーが目を見張った。基礎的な運動能力の高さは認められる。ただ、テニスの技術は皆無だった。
伊達のサーブに対しても同様だった。打ち返すものの、コートよりも周囲のフェンスにダイレクトで当ててしまう。伊達は労せずゲームをものにしようとしていた。
アキトは自分に腹を立てていた。どうしてボールを相手コートに返せないのか。対戦相手の伊達は易々とボールを打ち込んでくると言うのに。それでも負けん気だけは捨てないアキトだ。
だが、ここからの逆転は不可能に近い。あと一本、伊達に決められたら終わりだ。
「アキトーっ!」
そんなアキトにつかさは精一杯、大きい声を出して呼んだ。声援を送ったわけではない。ここまで大きな声を出さないと、伊達のグルーピーたちの歓声の前にかき消されてしまうからだ。その声はアキトの耳に届いた。
「つかさ」
アキトはすぐにつかさを見つけた。その姿にアキトは元気づけられる。百万の味方を得た気分だった(だから声援しに来たワケじゃないんだけど……)。
「このサーブで終わりだ。正直、ボクのスマッシュに追いつくのは驚いたけど、やはり初心者じゃボクの相手にならないね」
伊達はボールをコートに弾ませながら、サーブの態勢に入った。
アキトがニヤリとする。闘争心だけはそのままに。
「終わりかどうか、試してみるんだな」
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