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WILD BLOOD

第4話 内なるケモノを解き放て!

−2−

 その頃、当のアキトはそんなことなど知らずに、大きなあくびをしながら、通学路を歩いていた。その隣で並んでいたクラスメイトの武藤つかさが、眠そうなアキトの顔を見上げる。
「いつになく眠そうだね」
 つかさはアキトの方を窺いながら尋ねた。
 アキトは吸血鬼<ヴァンパイア>だ。東洋系とのことで、見た目、日本人に見られているが、その身体能力は人間のそれをはるかに上回り、ちゃんと人間の生き血をすするための乱杭歯も持っている。そんな吸血鬼<ヴァンパイア>が天気のいい朝っぱらから町を闊歩していること自体、常識から外れているのだが、以前、アキト本人が、人間の吸血鬼<ヴァンパイア>における知識はほとんど当てにならないと言っていた。とは言え、やはり日の光の下で動き回るのは、吸血鬼<ヴァンパイア>にとってはつらいことなのではないだろうか。そんなことをつかさは心配していた。
 だが、アキトはひたすら大口を開けると、生あくびばかり。
「昨日、夜中の三時まで妹とゲームやっててよ。あんまりオレが強すぎるんで、勝つまで付き合わされちまったんだ」
「へえ。アキト、妹がいるんだ?」
 それは初耳だった。と言うか、アキトから家族の話を聞いたことがない。
「妹さん、いくつ?」
「いくつって、お前、オレも妹も吸血鬼<ヴァンパイア>なんだぜ。実年齢は千年以上で、もう数え忘れちまったよ」
「そ、そう。でも、アキトと同じように学校とか通っているんでしょ?」
「ああ。一応、中学二年で通してるみたいだが」
「ふ〜ん。アキトに妹かぁ。今度、会ってみたいな」
 つかさは楽しそうに言った。反対にアキトは不機嫌そうだ。
「何で、お前、オレの妹なんかに興味があるんだ? ひょっとしてロリコン趣味とか?」
 アキトらしい言い方に、つかさは苦笑する。
「違うよ。アキトって、何か天涯孤独の一匹狼ってイメージだったから、その話を聞いて意外に思って。アキトの家庭に興味があるんだよ」
 つかさの答えをアキトは鼻をほじりながら聞いていた。
「吸血鬼<ヴァンパイア>ってのは、一族の結びつきが強いんだよ。だから、大所帯で暮らしていることが多いのさ。その方が、人間社会に溶け込めるって利点もあるんだけどな。怪しい一人暮らしは、逆に目立っちまうもんだし。まあ、ウチは兄貴とオレと妹の三人暮らしで、今は事情があって、オヤジたちとは離れているけど」
「お兄さんもいるの? へえ〜、益々、意外だよ。──ねえ、今度、アキトの家に招待してよ」
 つかさは頼んでみたが、アキトは苦い顔をする。
「ウチに? 冗談じゃない! お前なんか連れてったら、たちまち兄貴や妹が襲いかかるに決まってる! 誰があんな化け物の巣に、可愛いお前を連れて行くもんか!」
 必死に拒むアキトを見て、つかさは再び苦笑した。そう言うアキトだって、化け物には相違ないのだが(苦笑)。

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