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つかさとアキトが学校へ到着すると、朝のホームルームの代わりに臨時の朝礼が行われるとの知らせがあった。噂によれば、新任の教師を紹介するのだと言う。各クラスの担任教師に教室を追い出されるようにして、皆、集合場所の体育館へ向かった。
その途中、つかさの後ろを歩きながら、アキトが声をかけた。
「つかさよぉ、大丈夫か?」
「何が?」
「あの木暮って野郎のことだよ。友達になるとか言ってたけど」
つかさは怪訝な顔で振り返った。
「どういう意味?」
「お前、あいつに自分を重ね合わせたんだろ?」
アキトは何でもお見通しといった感じだ。つかさは敵わないといった顔をする。
「分かる? 何だか木暮くんを見ていると、ついこの前までの自分を見ているような気になるんだ。みんなにからかわれ、コンプレックスを抱えていた自分をね。でも、今のボクはアキトのおかげで、以前ほど、イヤな思いをしなくなったし、ちょっとは自分に自信が持てるようになった。だから木暮くんも、いい友人が出来れば変われるんじゃないかって思ってさ。ボクが少しでも木暮くんの悩みを軽くしてあげられるんだったら、それに力を貸してあげたいんだよ」
そう話すつかさを見て、アキトは大きく鼻から息を吐き出した。
「やっぱりな。お前のことだから、そんなところだろうと思ったよ」
「……アキトは反対なの?」
あまり表情が晴れないアキトを見て、つかさは尋ねた。アキトは首を横に振る。
「いや。別に反対はしねえ。お前の好きにするさ。だが……」
「だが?」
一拍置いてから、アキトはおもむろに抱きついてきた。
「つかさ〜ぁ、オレからあんな青びょうたんに乗り換えようなんて思うなよ〜ぉ!」
「そんなんじゃないってば! こ、こら! どさくさに、どこ触っているのぉ!?」
二人は周囲の生徒たちが驚くくらい、大きな声を出してじゃれ合った。
体育館には全校生徒が集められ、すし詰め状態だった。お決まりの喧騒が耳に響く。
間もなく、マイクのハウリングが起こり、続いて進行役の教師が第一声を発した。体育館の反響で何倍にも騒がしかった生徒たちは、徐々に静かになる。
進行役の開会のあいさつを受けて、壇上に校長の信楽と、見知らぬ女性が上った。ようやく静かになりかけていた館内が、再びざわめき始める。無理もなかった。壇上の女性は白衣を着た美女で、否が応でも注目を集める。
もちろん好色なアキトも、真っ先に反応した一人だ。列の前方に並んでいるつかさには、後ろを振り返らなくても分かる。
「あー、諸君、静粛に。本日より、カウンセラーとして赴任された毒島カレン先生をご紹介します。──では、毒島先生。一言お願いします」
信楽校長に紹介され、カレンは艶然と微笑みながら、マイクを受け取った。
「毒島カレンです。今日より、皆さんの悩み事を聞かせていただきたいと思います。三年生は進路のことで悩んでいるでしょうし、他の皆さんもご両親や先生、友達にも話せないようなことを抱えていることと思います。でも、どうか自分一人で悩まずに、私に相談してください。どんな些細なことでも構いません。もちろん、カウンセリング室での会話は私と相談者だけの秘密とし、どのような内容であっても、ご両親や担任の先生に明かしたりはしませんので、その点も安心してください。ぜひ、私と一緒に悩みを解決して、素敵な高校生活を送っていただきたいと思います」
カレンがあいさつを終えると、館内から盛大な拍手が聞こえてきた。その傾向として、女子よりも男子生徒の拍手の方が多かったが。
「カレンちゃ〜ん!」
割れんばかりの歓声の中、投げキスをして手を振っているお調子者もいる。言うまでもなくアキトだ。
カレンは壇上を降りる前に、チラリとアキトを見やった。そして、口元に微笑みを浮かべる。その真意を知っているのは、隣で汗を拭っている信楽校長だけだった。
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