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WILD BLOOD

第4話 内なるケモノを解き放て!

−11−

「おはよ」
 登校途中の通学路、薫はアキトとつかさの姿を見つけて、小走りに駆け寄った。だが、アキトは右手を挙げて応えたものの、つかさの方は浮かない顔で薫に気づきもしない。薫は眉根を寄せて、アキトの顔を見た。
「今朝からこうなのさ」
 そう言いたげにアキトは肩をすくめる。つかさの姉みたいな薫としては黙っていられないところだが、つかさに声をかけようとしたところをアキトに制された。
「ちょっとワケありでな。今はそっとしておいた方がいいかも」
「どうして?」
 アキトはつかさから距離を置くようにしてから、重い口を開いた。
「B組の木暮って青びょうたん、知ってるか?」
 意外な名前が出て、一瞬、戸惑った様子の薫だったが、
「ああ、よくいじめられてるって話は聞くわ。直接は知らないけど、でも、私もちょっと苦手なのよね。なんとなくなんだけど」
 と、肩をすくめた。今度はアキトの方が驚いたように薫を見る。
「へえ。曲がっていることの嫌いなお前のことだから、もっといじめに対して不快に感じているのかと思ったけど、意外だな」
「もちろん、いじめは良くないわ! でも……何となく木暮くんに同情できないのよ。こんなこと言っちゃいけないんだろうけど、何を考えているか分からないようなところがあって……」
 薫は表情を曇らせた。アキトが言うように、薫は竹を割ったような性格で、陰湿な行為はどんなことであっても断じて許せない。だが、その反面、いじめられている木暮をどこか蔑視している自分に気づいていて、ジレンマを感じているようだった。
「同感だな」
 アキトが軽く言った。薫は肩を叩かれたような気がした。
「オレもちょっと見ただけだが、あの青びょうたん、腹に一物、何か持っているような気がしてならねえ。それが周囲の人間を苛立たせる──いや、不安にさせるのかもな」
「どういうこと?」
 薫に尋ねられ、アキトは首を傾げる。
「さあ。オレも直感で言っているだけだ。正しいかどうかは分からねえよ」
 アキトはそう言って、前を歩いているつかさに視線を向けた。
「だが、アイツだけはそんな風に青びょうたんを見なかった……」
「?」
 アキトは薫に、昨日の出来事を話した。薫がうなづく。
「ふ〜ん、つかさがねえ。ちょっとは誰かさんに影響されたのかしら?」
 薫はそう言って、アキトの顔を見た。だが、アキトは苦虫を噛み潰したような顔だ。
「オレは別に何もしてねえよ。まあ、きっかけくらいは作ってやったが、つかさは元々、他のヤツらよりも秀でた力を持っていたんだ。それを自分で勝手に封じ込めていた。力を使わないよう、遠慮してたんだな。だから、今のつかさは変わったんじゃなく、普通になったんだと思うぜ。自分の力を認めて、初めて本当の自分を知った。アイツは強さと優しさを同時に持つことが出来るヤツなんだ。だが、あの青びょうたんは何か違うような気がする。アイツの胸の内にあるのは、もっと──」
 そこまで喋って、アキトは薫の視線に気がついた。ちょっと目を丸くしたような意外な顔。
「な、何だよ?」
「いや、アンタがまともなこと喋るの初めて見たから、ビックリしちゃって……」
「あのなあ、オレを何だと思ってたんだ?」
「ただのバカ」
「………」
「ただのスケベ」
「………」
「ただの変態」
「………」
「それから──」
「……もういい」
 アキトと薫が夫婦漫才をやっていると、脇道からカメラを首に下げた大神憲<おおがみ・けん>が二人の姿を見つけて、手を振りながら近づいてきた。
「兄貴、おはようございます!」
「おう」
「朝っぱらから忍足さんと並んで登校とは、兄貴も見せつけてくれますねえ」
 そう言って、大神はカメラを構えた。
 そんなことを言われて、薫が黙っているわけがない。
「ちょっと変なこと言わないでよ! こんなヤツと一緒に並ぶわけないでしょ!」
 今まで横に並んで会話していたクセに、薫は途端にアキトから離れた。大神はシャッターチャンスを失い、苦笑する。
「そんな照れなくても……」
「照れてません!」
 ズイッと薫に本気で凄まれ、さしもの狼男も尻尾を丸めるしかなかった(苦笑)。これ以上からかうと、とんでもない目に遭いそうだ。
 その薫にスッと後ろから肩に手を回したのはアキトだった。
「将来、オレたちの子供に、父さんも母さんも若かった頃の写真を見せてやるのは、きっといいことだと思うぞ」
 南無三。
 ドガッ! バギッ! グサッ! ドドドドドドッ! ドカーン!(どんな擬音だ?)
 アッという間に、アキトは薫の攻撃によってボロ雑巾にされた……。
「誰が父さんと母さんなのよぉ!? それに何? 『オレたちの子供』って?」
「あ、『愛の結晶』と呼んだ方が良かったか?」
「そう言う問題じゃない!」
 トドメ! ズバッ!
「む、無念……」
 パタッ……。アキト、ここに死す(いや、殺しても死なないだろうけど)。
 一部始終を目撃した大神は、薫の恐ろしさに戦慄した。

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