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「大神くん」
大神を現実に引き戻したのは、少し先行して歩いていたつかさだった。大神を見つけて、戻ってくる。
「ああ、武藤くん。おはよう」
これで助かったと、大神はホッと息をつく。だが、あいさつもそこそこに、つかさは大神に詰め寄った。
「大神くん。木暮くん、どうしたのか知らない? 昨日、一緒に帰ろうと思っていたんだけど、もうB組の教室にはいなくて……」
今朝、つかさが浮かない顔をしていたのはそのせいだった。友達になろうと約束した木暮。その木暮が昼休みに一緒にごはんを食べに来ることもなく、帰りも先に帰ってしまうとは。つかさは木暮と親しくすることが出来ないのかと落ち込んでいた。
そんなつかさの腕を、大神が急につかんだ。そして、周囲を気にしながら、近くの路地に引っ張り込む。アキトと薫もすぐに後を追った。
「お、大神くん?」
強張った表情の大神に、つかさは呼びかけた。だが、大神は何かを警戒するように通りに気を配る。しばらくして、大神はつかさの腕を放し、大きく息を吐き出した。
「勘弁してくれよ。あんなウチの生徒が大勢いる中で木暮のことを訊くなんて」
「どうして?」
問いかけるつかさに、大神は情けないくらいに疲れた顔をする。
「いいかい? あのみんなから嫌われている木暮のヤツを探してちゃ、その同類と見られるでしょうが。木暮の友人と分かったら、武藤くん、今度はキミもつけねらわれるよ。オレだってタダではすまないかも」
大神は冷や汗を垂らさんばかりに忠告した。つかさは少しいきり立つ。
「そんな! どうしてB組の人はそうやって木暮くんを嫌うの!? 木暮くんが何かみんなにしたって言うの!?」
つかさの勢いに気圧されて、大神は両手で制そうとする。
「オレに怒らないでくれよ。でも、クラスのほとんどのヤツは、木暮を何となく気味悪がっているんだ。何を考えているのか、誰とも話さないし、どんなひどいいじめを受けても、ジッと黙って見つめるだけ。まるで心の中では、もっとひどい復讐を考えているみたいに。だから、みんなから嫌われているんだよ」
「そんなの言い訳だよ! みんながいじめるから木暮くんは余計に自分の殻に閉じこもろうとするんだ! 木暮くんは自分を守ろうとしているだけさ! それのどこがいけないの!?」
「おい、つかさ」
興奮するつかさをアキトがなだめようとした。薫も心配そうにつかさを見る。だが、つかさは感情の高ぶりを押さえられなかった。
「大神くん! キミがいじめに参加していなくても、黙って見ていたのなら同罪だよ! どうして木暮くんを助けてあげないの!? どうして自分のクラスメイトを嫌うの!?」
つかさはギュッと拳を握った。木暮を助けたかった。今すぐにでも。
「まさか、昨日も木暮くんは……」
「どうだろう? 詳しくは知らないけど、昨日は昼休みから姿を見ていないんだ。たまにいじめがエスカレートすると、早退したり、保健室に避難することもあるけど……」
つかさはそれだけを聞くと、路地から飛び出していった。きっと行き先は学校に違いない。早く木暮に会って、彼と話をするために。薫が呼び止めようとしたが、耳に入らないようだった。
「兄貴……」
大神は助けを求めるようにアキトの顔を見て、肩を落とした。その肩をアキトがポーンと叩く。
「つかさも必死なんだよ。青びょうたんに約束しちまったからな。何でも力になるって」
「………」
「だから、アイツが怒っているのは自分自身になんだよ。何もできない自分自身にさ」
とは言え、アキトも今のつかさにどんなことが出来るか分からなかった。ただ、つかさを見守ってやるしかないのか。だが、それはときとして苦痛を伴う。
そんなことを考えているうちに学校へ到着した。アキトは考え事をしたまま、下駄箱の扉を開ける。
「?」
上履きの上に、ノートを破り取ったような紙が、二つに折られて入れられていた。アキトはそれを手にして広げた。
『放課後、校舎裏へ来い』
走り書きのような汚い文字で書かれたそれは、どう見てもラブレターなどではなかった。アキトへの呼び出しだ。この学校の関係者で、こんなことをするヤツは、だいたい見当がつく。アキトは紙切れを握りつぶした。
「ちょうどいい。気晴らしに暴れさせてもらうぜ」
アキトは残忍な笑みを浮かべた。
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