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WILD BLOOD

第5話 野獣、涙の咆哮

−7−

 事件現場は騒然としていた。
 無理もないだろう。朝の出勤時間と重なった平穏なはずの住宅街は、通報で駆けつけた警察や消防、救急車が到着し、何事かと好奇心に満ちた野次馬たちが集まっている。そろそろマスコミも嗅ぎつけてきて、現状はより混乱したものになっていた。
 そんな中、つかさはいても立ってもいられない焦りを必死に押さえようとしていた。木暮のアパートへ来てみれば、本人の姿はなく、代わりに室内を荒らしまくって出てきたのは、とんでもない怪物だった。木暮は一体、どうしたのか? 部屋からは木暮の父親らしい男を発見することが出来たが、ケガとショックのせいか、まともな話を聞くことは出来なかった。
 さらに第一発見者であるつかさは、ここまで案内してくれた待田沙也加と共に、警察の事情聴取があるまで足止めされていた。もし、それがなければ、すぐにでも木暮を探しに行きたいつかさである。木暮は大丈夫なのか? あんな常軌を逸した怪物を目撃してしまうと、どうしても悪い想像をしてしまいがちになるのだった。
「こちらです」
 近くにいた制服警官が、ロープをくぐって現場から出てきた背広姿の男二人に声をかけた。おそらく、刑事だろう。初老の男とまだ二十代半ばくらいの青年だった。
「君たちが発見者?」
 初老の方の男が、身分証を提示しながら尋ねてきた。つかさと沙也加はうなずく。
「私は三高署の杉浦。こちらは同僚の神戸です。事件の状況を聞かせていただきたいのですが」
 杉浦と名乗った初老の刑事は、思ったよりも柔らかい物腰でつかさたちに話しかけてきた。二人の刑事から、それぞれ名刺を渡される。テレビの刑事ドラマなどと違って、もっと高圧的な態度で接してくるのかと身構えていたのだが、杉浦や神戸の様子に、つかさたちは少しホッとした。
 つかさは木暮のことを含め、包み隠さずに話した。ときどき、沙也加が横で補足の説明を入れる。刑事たちはそれを神妙な顔つきで聞き入った。
 だが、話が怪物の出現に及ぶと、両刑事の眉がひそめられた。
「怪物?」
 確かに、にわかには信じられない話だろう。つかさにしたって、自分の目で見たのでなければ、何かの見間違えと疑いたくなる。だが、現に本物の吸血鬼<ヴァンパイア>をクラスメイトに持っている以上、怪物の存在も信じざるを得なかった。
「神戸刑事!」
 敬礼を一つして、一人の制服警官が何やら報告にやってきた。つかさたちには聞こえないよう、事情聴取している杉浦刑事から少し離れて立っている神戸刑事に何やら耳打ちする。それを聞いて、神戸刑事の表情が変わった。
「杉さん、どうやらこの子たちの話は本当のようです! たった今、三高小学校でも怪物が暴れていったという通報があったそうです!」
「何?」
 杉浦刑事は信じられないといった顔で、神戸刑事を見た。これまで色々な凶悪犯を相手にしてきたのだろうが、巨大な山羊の怪物など初めてなのだから無理もない。
 神戸は報告を続けた。
「現在、三高中学校方面に逃走中とのことです!」
「小学校の次は、中学校か」
「どちらもこの近くの学校だわ」
 聞くともなしに耳にした沙也加が、隣のつかさに教えてくれた。
 どうして怪物は学校へ向かったのか? 単なる偶然か?
「神戸、我々も向かうぞ。──ご協力ありがとうございました。また、何かお伺いすることがあるかも知れませんが、今日のところはお引き取りいただいて結構です」
 つかさたちへの礼もそこそこに、杉浦刑事と神戸刑事は急いでパトカーの方へ向かった。怪物を追跡するつもりに違いない。
 集まった約半分の警察が移動を始めると、現場はさらに騒然となった。誰かが「三高中学校だ!」と叫ぶのが聞こえる。怪物の情報をつかんだ記者だろうか。野次馬たちもそれを察知し、三高中学校へ向かおうとする者たちが現れた。
 つかさはそんな人々の混乱を見つめながら、現場の周囲を取り囲んでいたロープをくぐり抜けた。この人たちの中に、木暮たちを本当に心配している人がいるのだろうか。そう思えてならない。

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