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「沙也加ちゃん!」
いきなりキンキンした声が、つかさの後ろにいた沙也加の名を呼んだ。慌てた様子でやせぎすの主婦が駆け寄ってくる。少し神経質そうな顔立ちだった。
「沙也加ちゃん、大丈夫だった!? ケガはない?」
その主婦は沙也加を見るなり、早口でまくしたてた。そんな彼女に沙也加は柔らかな笑みを見せる。
「はい、私は何ともありません。──あっ、近所のおばさんで、知り合いなの」
沙也加はつかさに教えた。
「あなたが第一発見者だったんですって? よく無事で……。それで木暮さんトコの男の子、大丈夫だった?」
矢継ぎ早に質問してくる主婦にも、沙也加はイヤな顔ひとつしなかった。
「春紀くん、でしたっけ? 彼は不在のようでした。多分、学校に行った後だったのではないかと」
「そう、良かったわ!」
それを聞いて安心したのか、主婦はひとつ息を吐き出した。
「でも、お父さんは大ケガをされていて、救急車で運ばれていきました。無事だといいのですが」
沙也加がそう言うと、主婦は露骨にイヤな顔をして、首を振った。
「いいのよ、あんなろくでなしはどうなっても!」
「ろくでなし?」
思わず尋ねたのは、つかさの方だった。主婦はうなずく。
「ええ。昼間っから仕事もしないで酒を飲んで、家でゴロゴロしているんだから。それにその人は木暮さんの旦那さんでも、男の子の父親でもないの。本当のお父さんが死んだ後、十年くらい前に転がり込んできた男なのよ」
主婦の話を聞いて、つかさは驚いた。木暮の家庭がそんな複雑な事情を抱えていたなんて。それを知りもせず、友達になろうとしていた自分が浅はかに思えた。友達なら、木暮の痛みをもっと理解すべきだったと。
だが、主婦はさらに続けた。
「それにお酒を飲むと手がつけられないほど暴れてね。いわゆる酒乱てヤツよ。木暮さんも男の子も、散々、暴力を振るわれたらしいわ」
「警察には何も?」
「そりゃあ、よっぽどひどいときには近所の誰かが通報して、何度か来てもらったことがあるわ。でも、そのたびに木暮さんの奥さんが謝って、二度とお酒を飲ませませんから、と泣いて頼むの。あんな男のどこがいいのかしらね。でも、そう言われちゃ、警察も私たちも引き下がるしかないじゃない。その繰り返しよ。だから、今回のことはバチが当たったんだわ! これで死んでくれれば、世のため人のためになるってものよ!」
主婦はそのあと、私だったら夫や恋人よりも息子の方が大事だとか、息子に何かあったらタダじゃおかないとか、いつの間にか自分の家庭の話を沙也加に喋っていたが、つかさはすでに聞いていなかった。
「木暮くん……」
つかさは早く木暮を探し出して、自分に出来る精一杯の何かをしてやりたかった。
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