←前頁]  [RED文庫]  [「WILD BLOOD」TOP]  [新・読書感想文]  [次頁→



WILD BLOOD

第6話 スクープにご用心

−5−

 戦いは始まった。
「絶対に仙月はんは何かを隠しとる! ウチの勘がそう教えてくれるんや!」
 寧音<ねね>はいつになく大真面目だった。その目は真剣そのもの。しかし、その横にいる晶は、そんな寧音<ねね>の顔を見て、深いため息をついた。
「それはアンタがどう思おうと勝手だが」
 晶はそこで一呼吸、止めた。一緒にいるありすまでが、次の言葉に注目する。
「──どうして、私らまで協力せにゃならんのだ!?」
 晶は怒りを込めて訴えた。
 ここは琳昭館高校の校門から少し離れたところに停められたワゴン車の陰だ。ちょうど道路の反対側である。今は登校時間で、多くの生徒たちが晶たちの方をちらりと一瞥しては、校舎の方へと去っていく。一応、校門からは死角になっているはずなのだが、車の陰に隠れている三人の姿は、ある理由もあって、目立ちすぎていた。
「つれないこと言いなはんな、晶はん。ウチら、友達やんか」
「うん、お友達〜ぃ!」
 寧音<ねね>が脳天気に言うと、続いてありすが楽しそうに答える。晶は頭が痛くなってきた。
「友達だからって、こんなことにまで付き合わせやがって! やるなら新聞部の連中を誘え!」
 晶は不満を爆発させた。今すぐにでも、この場から逃げ出したい気分だ。
 だが、寧音<ねね>は関西人のおおらかさとしたたかさを身につけており、激情家の晶よりも弁が立つ。
「分かってへんなあ、晶はん。これは特ダネなんやで。ジャーナリストゆーもんは、それを記事にするまで、たとえ身内でも明かしたらアカンのや。もし、協力なんて頼んでみい。アッという間に横取りされてしまうわ。それに特ダネを一人でモノにしたときの快感、これがまたこたえられへん! 病みつきになるわ。晶はんも一度、体験してみたらよろし」
「はいはい、そうですかい」
 晶はそっぽを向いて、寧音<ねね>の熱弁など、半分も聞いてはいなかった。とりあえず、事を早く済ませてしまいたい。
「とにかく、放課後のメシは、約束通り、おごってもらうからな」
 寧音<ねね>に念を押すように、晶は言った。こうして寧音<ねね>を手伝うと決めたのも、この交換条件があったからだ。晶はファミレスで一番高いステーキセットを食ってやろうと心に誓った。
「ねねちゃん、ありすもだよ〜ぉ。約束だからね〜ぇ」
 同じく食べ物につられたありすが、寧音<ねね>におねだりする。
 寧音<ねね>は気前よく、ドンと胸を叩いた。
「まかしとき! ウチに二言はあらへんで!」
「やった〜ぁ! ありす、何食べようかな〜ぁ。ストロベリー・サンデーにしょうかな〜ぁ、それとも〜ぉ、チョコレート・パフェにしようかな〜ぁ。でも〜ぉ、プリン・アラモードも捨てがたいし〜ぃ、フルーツあんみつもいいでしょ〜。あっ! ホットケーキ・セットもあったっけ〜? う〜ん、ありす、迷っちゃ〜う。ねえねえ、晶ちゃんは何にしたらいいと思う〜?」
「不吉だわ」
「きゃっ!」
 いきなり予想外のところから声がかかり、ありすは大袈裟にびっくりした。
「ミサはん!」
 それは同じクラスの黒井ミサだった。いつの間にやって来たのか、三人ともその気配にまったく気づかなかった。
 だが、ミサは三人を驚かせたことに何も感じないのか、いつものように神秘的なポーカーフェイスを崩さない。
「徳田さん、忠告したはずよ。あの男──仙月アキトに関わるのはやめた方がいいと」
 ミサは静かに言った。その言い方が冷たくも感じる。
 当然、寧音<ねね>の気に障った。
「ミサはん。いくらあんさんの忠告でも、それだけは聞けまへんなあ。取材はウチの命や! あんさんの占いで、どんな結果が出たかは知らへんけど、今のウチを止めることは誰にもできへん──」
「来た!」
 言葉に熱のこもる寧音<ねね>の口を、晶はいきなり塞いだ。
「もがもがもご?」
 寧音<ねね>は目だけを動かし、確認する。ターゲット出現だ。

<次頁へ>


←前頁]  [RED文庫]  [「WILD BLOOD」TOP]  [新・読書感想文]  [次頁→