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WILD BLOOD

第6話 スクープにご用心

−7−

 第二ラウンド。
「まだまだ、ウチはあきらめへんで!」
 朝、痛恨の自爆をした寧音<ねね>は、昼休みになると、すっかり復活していた。そんな寧音<ねね>に、ありすは「やんや、やんや!」の大拍手。一方、晶は「まだやるのか?」と呆れ顔だ。
「で、次はどうすんだ?」
 マヌケな作戦でなければいいが、と思いつつ、晶は喜色満面な寧音<ねね>に尋ねた。
「ふっふっふっ、コレや!」
 二人を廊下へ引っぱり出した寧音<ねね>が取り出したのは、茶色いガラスの小瓶だった。
「まさか、毒薬!?」
 晶は引きつった。
「アホ言いなさんな! 毒殺してどないするっちゅーねん!? これは自白剤や!」
「自白剤?」
「ほら、よく映画とかであるやろ? 捕まえたスパイなんかに情報を聞き出すとき、薬を打って、自白させるっていう、アレや。化学部の部室にあったヤツを、ちょっと、ちょろまかしてな」
 それは泥棒だろう、と晶はツッコミを入れたくなった。いや、そもそも、そんなものが化学部に置いてあるなんて(そりゃ、そうだ)。
「それで、誰がお注射打つの〜ぉ?」
 ありすが珍しく、至極まともな質問をした。自白剤と言えば、やっぱり注射器で打つのが普通だろう。この中に、そんな技術を持っている者がいるとも思えなかった。
「心配あらへん。こんなこともあろうかと、ちゃんと用意してきたんや」
 そう言うと、寧音<ねね>はペットボトルのお茶と紙コップを出して見せた。そして、おもむろに紙コップへお茶を注ぐ。
「お、おい……」
 次の瞬間、寧音<ねね>は小瓶の蓋を開け、一滴残らず、お茶の中に流し込んだ。目撃した晶が目を丸くする。
「ま、まさか、それを飲ますつもりか? そんなことして大丈夫なのかよ!?」
 すると、寧音<ねね>はケロッとしたもので、
「多分、大丈夫やろ。どのみち、体の中に入れば同じやし」
 と、言い切る。
 どうして、いつも肝心なところはアバウトなのだろう。晶は呆れ返るしかなかった。
「さすがの仙月はんも、これを飲めば、あることないこと、ペラペラ喋りよるで」
「不吉だわ」
「うわああああっ!」
 まるで測ったようなタイミングでミサの声が聞こえ、思わず寧音<ねね>は持っている紙コップを落とすところだった。
 見れば、ミサがC組の教室の入口から左半身だけ廊下に出して、こちらを見つめていた。三人の背筋が寒くなる。
「何やねん、毎度毎度、幽霊みたいに!」
 寧音<ねね>は付きまとうミサに辟易し、つい口調が強くなった。それでもミサの表情は変わらない。
「私は忠告をしているの。悪いことは言わないわ。今からでもおやめなさい」
「だから、余計なお世話だっちゅーの!」
 寧音<ねね>はミサを無視することに決めると、思い思いに昼食を取っている一年A組の教室へと入っていった。晶とありすは、とりあえず心配なので、教室の外から中を覗いてみる。
「ちょいと失礼しまっせ」
 新聞部で鍛えた(?)持ち前の図々しさを発揮し、寧音<ねね>はよそのクラスの中を堂々と横切っていった。A組の生徒たちが何事かと注目する。顔見知りの薫も、不思議そうに目線で追った。
「あっ!」
 食事中だったつかさも、こちらへとやって来る寧音<ねね>の姿に気づいた。その様子に、向かいに座ってパンをむさぼっていたアキトも視線を向ける。パンから口を離した。
「お前は新聞部の──」
「おっ! 憶えててくれたとは嬉しいおますな」
 寧音<ねね>は手揉みせんばかりに喜んだ。すると、アキト、
「え〜と、『ぺぺ』だっけか?」
「寧音<ねね>や!」
 ベタなボケに、すかさず寧音<ねね>はツッコミを入れた。どうせなら、右手にハリセンが欲しいところである。教室からドッと笑いが起きた。
 だが、気が気でないのはつかさである。寧音<ねね>はアキトのことを探っているのだ。万が一、アキトの正体が吸血鬼<ヴァンパイア>だと知られては一大事である。
 そのアキトに、寧音<ねね>はすり寄った。
「仙月はん、昨日は失礼しましたわ。怪物のことは、どうやらウチの勘違いだったみたいですわ」
「へえー」
「で、まあ、ご迷惑をおかけしたお詫びということで、お茶を一杯、おごらせていただきたいと思いましてな」
 寧音<ねね>はそう言って、机に持ってきた紙コップのお茶を置いた。

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