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WILD BLOOD

第6話 スクープにご用心

−8−

 ちょうど飲み物が欲しいと思っていたところだ。アキトは素直に紙コップを手にする。しかし、持ち上げたところで止めた。
「ど、どないしはりました?」
「一服盛っちゃいねえだろうな?」
 ぎくっ!
 一瞬、寧音<ねね>の身体が硬直した。だが、すぐに作り笑いをする。
「あっはっはっはっ! 仙月はんもお人が悪い! 何でウチがそんなことをしますかいな」
「それもそうだな」
 アキトはそれで納得したのか、あっさりと首肯すると、再び紙コップを持ち上げ、口元へ運んだ。
「さあ、男らしゅう、グイッと!」
 勧める寧音<ねね>。
 アキトは飲んだ。ゴクリ。
 思わず、寧音<ねね>の喉も動いた。
「んぐ、んぐ、んぐ」
 アキトは一気に紙コップを傾け、お茶を飲み干した。その瞬間、寧音<ねね>のメガネがキラリと光る。
「仙月はん、引っかかったな!」
 寧音<ねね>は決めポーズのように、ビシッとアキトが持つ紙コップを指さした。何事かと、どよめく教室。一番、間近で見ているつかさの心臓はドキドキと脈打った。
「そのお茶にはなあ、自白剤が混ぜてあったんや!」
「な、何ィ!?」
 アキトがうろたえたように席を立つと、手元から紙コップが滑り落ちた。勝ち誇る寧音<ねね>。
「さあ、あんさんが隠していること、洗いざらい吐いてもらおうか!」
「うっ……!」
 アキトは喉を押さえた。しかし、薬の効果か、全身が痙攣しているかのように震える。
 その様子を廊下から見ていた晶とありすは、グッと拳を握りしめていた。
「やったか?」
「アキト!」
 つかさは心配になって、アキトの身体に触れた。アキトもすがるように、つかさの肩をつかむ。
「つ、つかさ……」
「アキト! アキトーォ!」
 次の瞬間、アキトは予想もしない行動に出た。
 がばっ!
 アキトはおもむろに、つかさを抱きしめたのだ。そして──
「つかさ! オレはお前が好きだぁぁぁぁぁぁ!」
 おいおい、それは『自白』じゃなくて、『告白』だろ?(爆)
 教室内には、ぞわぞわっという鳥肌の立つ雰囲気が伝染した。皆、アキトとつかさを中心にして、遠ざかる。その中には寧音<ねね>も含まれていた。
 いきなりのことに、つかさは声も出せず、ただただ顔を真っ赤にさせた。それをいいことに、アキトは思う存分、つかさを抱きしめる。
「この変態がぁ!」
 真っ先に行動に出たのは、自称『つかさの保護者』である薫だ。教室に持ち込んでいた竹刀(対アキト用)を振り上げて、ハレンチな輩を成敗しようとする。
「おっと!」
 そう、いつもいつも同じ手を喰らうわけにはいかなかった。アキトは素早くつかさから離れると、バク宙で薫の攻撃を交わす。
「逃がすもんですか!」
 薫はすぐさま切り返し、逃げるアキトを追った。アキトは教室の机の上に乗ると、次から次へと飛び移っていく。机に弁当を広げていたクラスメイトたちはたまらない。慌てて手元に弁当を抱え、守らねばならなかった。
「コラッ! 降りなさい!」
 クラス委員でもある薫は、教室を飛び回るアキトに注意し、自らも竹刀を持って追いかけ回した。すでに昼食を取れるような、のどかな昼下がりではない。
 アキトはちょうど教室を一周すると、ひらりとリノリウムの床に着地した。そこへ薫渾身の一撃が襲う!
「メェーン!」
 ぱーん!
 小気味いい音が教室内に響いた。だが、一撃を決めたはずの薫の表情が、サッと強張る。
「寧音<ねね>!」
 竹刀の切っ先は、寧音<ねね>の額を痛打していた。アキトが直前で避け、その後ろにいた寧音<ねね>に当たってしまったのである。寧音<ねね>は全身から力が抜けると、そのまま膝から崩れ落ちた。
「ごめーん、寧音<ねね>! 大丈夫!?」
 薫は慌てて介抱したが、寧音<ねね>はすっかり気絶していた。
 アキトはそれを少し離れたところから、頭の後ろで手を組みながら眺めていた。
「お灸を据えるつもりだったが、ちょっとキツすぎたかな?」
 すべてはアキトの計算通りだった。薫を怒らせて、寧音<ねね>を巻き添えにすることは。いや、そもそも最初から自白剤の効果などなかったのである。さすがは吸血鬼<ヴァンパイア>。もっとも、寧音<ねね>の用法が間違っていたのも一因だろうが(苦笑)。
 教室はすっかり収拾がつかなくなっていた。つかさはショックで突っ立ったままだし、薫は寧音<ねね>の頬をぺちぺちと叩き、他の者たちは弁当が散乱したり、机がひっくり返ったりで大騒ぎ。アキトは一人、ペロリと舌を出した。

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