←前頁]  [RED文庫]  [「WILD BLOOD」TOP]  [新・読書感想文]  [次頁→



WILD BLOOD

第6話 スクープにご用心

−9−

 というわけで、第三ラウンド。
「こうなったら、何が何でも特ダネをモノにしたるわ!」
 二度の作戦失敗にもめげず、寧音<ねね>はさらに燃えていた。その額には絆創膏が貼られている。薫の竹刀を受けたときに出来た傷だ。すべてはアキトのせいである。今や、寧音<ねね>のジャーナリスト魂は、復讐心に支えられていた(苦笑)。
「今度こそ、絶対に完璧や!」
 最初の作戦は、いわば奇襲。怪物の姿で(着ぐるみだけど)出ていって、アキトの反応を見るというものだった。ただし、自爆で失敗。
 二回目の作戦は、直接行使。自白剤を使って、吐かせようと思ったが、どうやらアキトには効果がなかったようだ(その前に正しい用法を用いるべきだと思うが)。
 そこで、第三の作戦は──
「ジャ〜ン!」
 寧音<ねね>は自分の姿を店先にあるショーウインドのガラスに写してみた。
 今、ガラスに映っている寧音<ねね>は、セーラー服を着た女子高生ではなかった。どこから見ても、和装の腰が曲がったおばあさんである。
 実は、演劇部にいる知り合いに特殊メイクを施してもらい、衣裳も借りてきたのだ。それにしても、何度、眺めてみても、まるで自分の五十年後が映し出されているようだった。これなら誰にも寧音<ねね>だとは分かるまい。
 寧音<ねね>が用意した第三の作戦。それは、変装してアキトに近づき、親しくなったフリをして、秘密を探り出すことだった。しかも、人の良さそうなおばあさん相手なら、さすがのアキトの警戒心も薄れるのではなかろうか(と思っている寧音<ねね>だった)。
 今頃は、下校したアキトを、晶とありすが尾行しているはずだ。先程の連絡によれば、クラスメイトのつかさと共に、学校の近くにあるラーメン屋《末羽軒》に立ち寄った後、こちらへ向かっているとのこと。今度こそ、作戦を成功させる自信が寧音<ねね>にはあった。
 そこへ寧音<ねね>の携帯電話が鳴った。一瞬、イヤな予感がする寧音<ねね>。
 表示された相手の電話番号は見覚えのないものだった。とりあえず出てみる。
「はい、もしもし?」
『不吉だわ』
「み、ミサはん!?」
 やはり予感は的中した。いざ、作戦実行となると、いつも寧音<ねね>に忠告してくるミサだ。
 寧音<ねね>は段々、自分が呪われているような気分になってきた。
『徳田さんね。今、どこにいるの? もし、また仙月アキトに関わろうとしているなら、やめた方がいいわ』
「ちょっと待ったぁ! それよりもミサはん、どうやってウチのケータイの番号、調べたんや!?」
『……占いで』
「ホンマかいな!?」
 どう考えてもウソっぽいが、ミサが言うと本当らしく聞こえる。彼女は占いで何でも見通すことができる本物の魔女かも知れない。
『それよりも、まだ、あなたから不吉な影が去らないわ。このままだと、取り返しのつかないことになってしまう』
「へいへい、そうでっか」
『徳田さん、真面目に聞いて』
「そう言われてもなあ。──悪いけど、今、忙しいねん。また後にしてくれへんか」
 寧音<ねね>はけんもほろろに言うと、ミサの言葉を待たずに電話を切った。
 そこへちょうど、着信メールが入る。内容は簡潔だ。『そっちへ行った』。アキトを尾行している晶からだ。
 ほどなくして、つかさと並んで歩きながら、アキトが現れた。二人は朝と同じように何事か会話しながら、交差点の信号の前で止まる。
「だから、そう怒るなって」
 アキトは苦笑しながら、つかさをなだめている様子だった。だが、つかさは唇を尖らせている。
「ひどいよ、アキト。みんなの前で、あんなことして!」
 つかさが怒っているのは、昼休みにアキトが「好きだ!」と叫び、抱きついたことに違いなかった。クラスメイトたちの反応を思い出すと、今でも顔から火が出そうなつかさだ。アキトは笑うしかない。
「悪かった! 反省してます! だからこうして、ちゃんとラーメンもおごってやったじゃないか!」
「ボクはアキトと違って、食べ物で懐柔されたりしないから」
「お前なあ、そういうことはおごる前に言えよ!」
 二人の会話を聞いていると、本当に言い争っているのか、冗談を言い合っているのか分からない。
 そこへ、おばあさんに変装した寧音<ねね>が二人に近づいた。そして、立ち止まっているアキトに自らぶつかっていき、その場にわざとらしく転ぶ。
「あっ! おばあちゃん、大丈夫!?」
 声をかけたのは、心優しいつかさの方が先だった。むしろ、ぶつかって来られたアキトは、剣呑な目で寧音<ねね>を見下ろす。
 寧音<ねね>は構わず、胸の辺りを抑えると、苦しそうなうめき声を出す芝居を始めた。

<次頁へ>


←前頁]  [RED文庫]  [「WILD BLOOD」TOP]  [新・読書感想文]  [次頁→