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WILD BLOOD

第6話 スクープにご用心

−14−

 コンビニ強盗の一部始終を外から眺めていた人物がいた。強盗が失敗したのを見て、チッと舌打ちする。その目は強盗を鮮やかに撃退したアキトを追っていた。
 そんな視線も知らず、アキトは足早に外へ出てきた。続いて追うように、寧音<ねね>も出てくる。
「ちょっと、事情聴取はどうすんねん?」
「そんなもん、パス、パス! お前に任せるわ。じゃあな、また学校で!」
 アキトは寧音<ねね>に押しつけると、自分はさっさと帰っていってしまった。そんなアキトに寧音<ねね>は地団駄を踏む。
 目撃していた人物は、アキトがいなくなると、寧音<ねね>に近づいて行った。
「やあ、キミ。えらい目に遭ったねえ。怖かっただろう?」
 寧音<ねね>はいきなり声をかけてきた人物に胡散臭そうな目を向けたが、すぐにコロッと態度を豹変させた。その人物が男性アイドルもかくやという爽やかな印象の美少年だったからである。歳も寧音<ねね>とそんなに変わらないように見えた。
「はい、もう怖くて怖くて、死にそうでした」
 寧音<ねね>は精一杯の可愛さを表現して答えた。関西弁が標準語になってるし(苦笑)。
 少年はそんな寧音<ねね>に微笑む。
「とにかく無事で良かったよ。それにしてもコンビニ強盗をやっつけた彼、すごかったね。知り合いなの?」
「ええ」
「どこの高校?」
「琳昭館高校」
「名前は?」
「徳田寧音<ねね>です」
 寧音<ねね>が自分の名を名乗ったので、少年は苦笑した。
「いや、今の彼の名前」
「ご、ごめんなさい! 仙月アキトです」
「仙月……アキト」
「あ、あの、あなたは?」
 寧音<ねね>は期待を持って、少年に尋ねた。
「ボク?」
 すると少年は、右手の人差し指を差し出すと、軽く寧音<ねね>の眉間に触れた。
「キミは知らなくていい。ボクたちは出会わなかった。今の会話もすべて忘れる」
 寧音<ねね>は少年の言葉を聞いた途端、目の焦点がぼやけ、瞼が重そうに落ちた。それを見て、少年は微笑む。いや、冷笑だ。
 少年は寧音<ねね>の横を通って、駅の方角へと歩き始めた。やがて、遠くからパトカーのサイレンが聞こえてくる。アルバイトの店員が通報したものだろう。しばらくしてから、寧音<ねね>はハッと我に返った。
「あ、あれ? ウチ、どないしたんやろ?」
 寧音<ねね>は頭を振って、眠気を払った。何秒か立ったまま寝てしまったような気がする。疲れているのかと、首を傾げた。
 そんな寧音<ねね>の様子を肩越しに窺っていた少年は、また歩き出した。そして、口角を吊り上げる。
「小遣い稼ぎは失敗だったけど、面白いヤツを見つけた。仙月アキト。琳昭館高校か」
 少年は一人呟くと、もう一度、アキトが立ち去った方向を振り返った。
 頭上の月は、これからの波乱を予告するかのように、赤味をおびた鈍い光を放っていた。

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