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WILD BLOOD

第6話 スクープにご用心

−15−

「へえ、コンビニ強盗」
 翌朝、登校中にアキトから話を聞かされたつかさは、目を丸くして言った。
「これで、あのメガネも少しは懲りるんじゃねえか? オレの回りを嗅ぎ回るとろくなことがねえってよ」
 アキトは意地悪く笑った。それならいいんだけどと、つかさは肩をすくめる。
「──ところで、助けてやった礼に、あのメガネからこいつをもらったんだ」
 そう言ってアキトは、胸ポケットから一枚の写真を取り出し、つかさに見せた。それを見たつかさの顔が、一瞬にして真っ赤になる。
「あ、アキト! それは!」
「いいだろ? オレのお宝にするんだ!」
 アキトはご機嫌な様子で、写真にキスまでして見せた。あわてふためくのはつかさだ。
「ダメだよ、そんなの! 今すぐ、破り捨てて!」
「ヤダよ〜ん! これ、オレのだも〜ん!」
「アキト、こっちに渡して!」
 つかさは腕を伸ばしたが、アキトの方が長身のせいで、簡単には届かない。アキトは腕を真っ直ぐ上に伸ばして、取られるのを防いだ。つかさは跳び上がって奪おうとする。
「アキト!」
「だから、ダメだって!」
 何度目かの果敢なチャレンジの末、つかさの手がアキトの手をはたいた。その拍子に写真が落ちる。
「アンタたち、何を朝っぱらから騒いでいるのよ?」
 そこへ偶然(?)、通りかかったのは薫だった。竹刀に防具の入った袋を担いでいる。その足下に写真が舞い落ちた。
「あっ、薫!」
「ゲッ! やばっ!」
「ん?」
 薫は何気なく写真を拾い上げた。そして、見る。
「ああああああっ……」
 つかさは赤面しながら、この世の終わりを嘆くかのように頭を抱えた。
 そして、アキトは抜き足差し足で、その場から逃げようとする。
 写真を見た薫の顔が紅潮した。そして、肩が震える。
「なっ、な、なななななな、何よ、これ!」
 アキトが持っていた写真──それは屋上でアキトがつかさに(冗談で)迫った瞬間を寧音<ねね>が撮影したものだった。まるでキスする寸前のような写真だ。それを見て誤解しない者は、まず、いないだろう。昨日の告白騒動の一件もあるし。
 薫は写真を、グシャリと握りつぶした。そして、すらりと竹刀を抜く。殺気。
「変態、変態、変態、ヘンターイ!」
「うわああああっ!」
 薫の振り回す竹刀を避けながら、アキトとつかさは逃げ出した。薫もそれを追いかけ回す。静かな朝の光景など、この三人には無縁のようだった。
 そんな様子を少し離れた後方から見つめている人物がいた。カメラを構えた徳田寧音<ねね>だ。
「仙月はん……ウチはあきらめへんで」
 そう言って、シャッターボタンを押していく。
 さらに、その寧音<ねね>の後方二十メートルには、クラスメイトの晶、ありす、ミサの三人がいた。相変わらず懲りない寧音<ねね>を見て、晶とありすは苦笑するしかない。
 そして、ミサは──
「不吉だわ」
 と、無表情のまま静かに呟いた。

<第6話あとがき>



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