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つかさと薫は、その場で顔を見合わせた。
ありすに何があったのか。二人は血相を変えると、一緒に行動を起こした。
「伏見さーん!」
「どこ? どこにいるの?」
呼びかけつつ、公衆トイレから公園の入口の方へ走ると、そこには心配そうな晶が立っていた。晶もありすを探しているのか、ぐるりと辺りを見渡している。
「桐野さん! 伏見さんは?」
薫が勢い込んで尋ねた。だが、かぶりを振る晶。
「分からない。近くにいたと思ってたんだけど、いつの間にかいなくなってて……」
「あのバカは?」
薫はもう一人、姿の見えない人物に気づいた。アキトだ。
「まさか、アイツ──!」
険しい表情で、晶がギリッと奥歯を噛みしめた。寧音<ねね>に引き続き、アキトがありすに何かをしたと考えたに違いない。
そんなことはない、と否定しようとしたつかさだが、悲しいかな、必ずしもそうとは言い切れない。何しろ、アキトは男のつかささえ見境なく押し倒そうとするヤツだ。ロリータ・タイプの美少女ありすによからぬことをしようとしても不思議はない。
「とにかく、捜しましょう!」
ジッとしてても始まらないと、薫がつかさたちを促した。三人で固まって行動する。
とりあえず、公園の入口から見える範囲にはいそうもない。いるとすれば、もっと奥の方か。薫たちは公園の池を半周し、木々が生い茂ったところへ移動してみた。
すると、そこにセーラー服姿の少女が背を向けてしゃがみ込んでいた。ありすだ。泣いているのか、肩が震えているように見える。
「ありす! どうした!?」
比較的早く発見できたことにホッとしつつ、晶が駆け寄りながら声をかけた。辺りを見回してみるが、アキトの姿はない。
「あっ、晶ちゃん」
ありすが振り返った。その顔は半ベソだ。やっぱり何かあったのかと、三人は緊張する。
「ど、どうした!?」
「ひ〜ん、晶ちゃん……コアラのマーチ、落っこどしちゃったぁ〜」
ずざざざざざざっ!
地面にばらまいたお菓子をひとつひとつ拾いながら悲しげに訴えかけるありすに、必死に走ってきた晶たち三人は脱力して、ズッコケかけた。こ、コアラのマーチ……。
「そんなことで悲鳴を上げたのか、アンタは!」
えらい剣幕で晶がツッコミを入れた。
ありすは、ひくっ、と怯えながらも、涙目で、
「え〜っ、だってほとんど手付かずだっただよぉ〜。もったいないよぉ〜」
と反論した。
そう言えば、ありすにとってお菓子は命の次に大事なものだ。よく教室へも持ち込んでいて、暇さえあれば食べている。そのくせ、ロリータ体型はずっと保っているのだから大したものだ。夢はお菓子のCMに出演することだとか。さぞや適役だろう。
そんなありすを見ていると、長く怒る気力も失せてくる。晶は降参の証拠に、深いため息をひとつついた。
「まったく、アンタってヤツは……」
右手で顔の半分を覆いながら、晶は呻いた。つかさと薫はフッと笑みを漏らす。
「まあ、良かったじゃない? 大変なことになってなくて」
薫が取りなすように言った。そして、つかさと一緒に落ちたコアラのマーチを拾い始める。
「大変なことって、何がぁ〜?」
一人訳が分からないといった感じで、ありすが小首を傾げた。ありすにとって大変なことは、今、まさにこの状況であって、他には思い浮かばない。
「何でもないよ」
投げやりに答えて、晶も散乱したコアラのマーチを片づけにかかった。
その刹那──
ガサガサ ガサガサ
近くで茂みの揺れる音がした。しゃがみ込んでいた四人──いや、ありす以外の三人は、警戒に身を固くする。何かが近くにいる。それは──
「誰!?」
薫が誰何の声を上げた。晶はジッと茂みを睨み、つかさは少し怖がったような素振りを見せる。
その直後、茂みから一人の男がヌッと姿を現した。三十くらいだろうか、かなり髭を生やしていて判然とはしないが、立つ姿勢はスラリとしている。服装はカメラマンっぽい。実際、カメラも首から下げていた。
「やあ、驚かせてしまったかな?」
男は笑いながら詫び、つかさたちの方へと出てきた。
突然、見知らぬ男が茂みの中から現れ、四人は呆気に取られた。だが、すぐに薫と晶が胡散臭そうな顔をする。
「こんなところで何をしてたんですか?」
「見た感じ、カメラマンみたいだけど……こんなところでバードウォッチャーってこともないわよね? まさか盗撮?」
可愛い女子高生二人に疑いの眼差しで睨まれ、髭面の男はたじたじとなりがら苦笑した。
「おいおい、盗撮は勘弁してくれよ。これでも歴とした記者なんだ」
男はそう言うと、ポケットから名刺入れを取り出した。そして、四人それぞれに名刺を配る。
「月刊アトランティス編集部、菅谷繁?」
薫が読み上げると、その菅谷という男はにこやかにうなずいた。
「そう、菅谷だ。よろしく、高校生諸君」
だが、四人は顔を見合わせた。
「『月刊アトランティス』なんて雑誌、知っている?」
「さあ」
「ぜ〜んぜ〜ん」
「聞いたこともない」
四人の冷たい反応に、菅谷は片膝を折りかけた。
「たはははは、参ったね、こりゃ。『アトランティス』ってのは、ウチの出版社で出しているミステリー・マガジンでね。世界の超常現象などを記事にしてるんだ。それこそ、おなじみのUFOから超能力、心霊現象、果ては古代の超文明まで幅広くね」
「怪し〜い。どこまで真実に基づいて書かれてるんだか」
晶が率直な感想を言った。どっちかというと、こういうオカルト紛いの話は信じない方だ。
しかし、菅谷はそう言われるのに馴れているのか、ちょっと苦笑して見せただけで、
「まあ、多少は想像を膨らませて書いているけどね。でも、だからって全部が全部ウソってわけでもないんだよ。世界にはまだまだ人類には解明できない謎が多数存在するのだから」
と、もっともらしい講釈を述べた。
薫と晶は眉唾物と決めてかかっていたが、つかさだけは認めざるを得なかった。何しろ、クラスメイトに本物の吸血鬼<ヴァンパイア>がいるのだ。狼男だっているし、負の感情が恐ろしい怪物を生み出したところも見ている。菅谷が言うように、宇宙人や幽霊がいたって驚けない。
「それは分かったけど、どうしてそんな出版社の人がこんなところにいるんですか? それもカメラを持って。まさか、ここがミステリースポットだとか言い出さないですよね?」
ここは住宅街の一角にある何の変哲もない児童公園だ。何千年も前の遺跡もなければ、死者の魂がさまようような病院の廃墟というわけでもない。薫が再度尋ねたのも当然と言えた。
すると今度は菅谷の方が怪訝な顔をした。
「おや、知らないのかい? 高校生の君たちがわざわざこんな児童公園にやって来てたから、てっきり知っているのかと思っていたんだが」
「ああ、私たちはただ、ねねちゃんをぉ──もごっ!?」
余計なことを言いかけたありすの口を後ろから晶が塞いだ。良く知りもしない人間に、寧音<ねね>が行方不明になったことを話すのは利口ではない。
薫がすぐに言葉を継いで、誤魔化した。
「知ってるって、何をですか?」
明らかにおかしな様子に、菅谷はどう判断していいか分からないようだったが、問われて答えた。
「ああ、この辺は昔から神隠しの言い伝えがあるんだよ」
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