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WILD BLOOD

第13話 学園の支配者

−9−

 かくして、生徒会長選挙は公示された。
 生徒会長選の候補者は以下の三名――

 二年E組・女子 待田沙也加
 一年A組・男子 仙月アキト
 一年B組・男子 嵯峨サトル

 投票は十月二十五日午後五時まで。

 新聞部発行による『琳昭館月報』臨時特別号にて、候補者三名のインタビュー記事が掲載。
 聞き手は、新聞部記者・徳田寧音(責任編集)。

「というわけで、まずは下馬評で最有力候補と言われている待田沙也加さんにお話を伺ってみたいと思います。こんにちは」
「こんにちは」
「前生徒会長、伊達修造氏がリコールされての突然の選挙となりましたが、その辺りはいかがでしたか?」
「はい。リコール請求が出されたことについては、大変、驚きました。なにしろ、伊達先輩はよくやられていたので、とてもそのようなことになるとは思ってもいませんでしたから」
「しかし、待田さんはこれまで副会長を務められていて、次の生徒会長に立候補するのは既定路線だったのでは?」
「いえ、そんなことはありません。生徒会長と副会長では、仕事の質、量ともに大きく違ってきます。副会長はサポートという役割が強いですが、生徒会長は中心となって動かなくてはなりません。すべてにおける学校行事の運営にも携わらなくてはならず、それだけで日常が忙殺されてしまう恐れがあります。ですから、自分の学業や進路のことを踏まえると、深く考えもせずに立候補するわけにはまいりませんでした」
「でも、こうして実際には立候補されたと」
「はい。任期が残りわずかだったとはいえ、伊達先輩が途中で辞めざるを得なくなったことは、とても残念なことだと思っています。約一年間、私は伊達先輩の下でお仕事を手伝わせていただいて、いろいろと多くのことを学ばせてもらいました。今後は、それを継承しながら、よりよい学校生活のために尽力していきたいと思っています」
「ということは、待田さんはリコールされた伊達前会長と同じことをしていこうということですか?」
「基本的には、そういうことです」
「でも、それでいいのでしょうか? リコールされた前会長と同じことをしても、生徒たちに認められないのではないですか? ひょっとしたら、今度は待田さんがリコールを突きつけられるかもしれません」
「もし、皆さんに認められないのであれば、私はリコールされる前に、生徒会長には選ばれないでしょう。でも、このように複数の候補者が生徒会長選に立つことになったおかげで、むしろ私が考えている生徒会がどのようなものか、それを皆さんにちゃんと知っていただく、いい機会になったと捉えています。説明さえさせていただければ、きっと皆様にも理解していただけると私は信じているのです。なんだか生徒会というと、多くの人が特別なところというイメージをお持ちのようですが、そんなことはありません。生徒会は学校生活の規範を作るところであり、決して生徒と無縁な場所ではないのです。かくゆう私も、この学校に通う一生徒に過ぎないのですから」
「なるほど、分かりました。その辺は投票日前日の候補者演説で語られるわけですね」
「はい、そのつもりでおります」
「今日はありがとうございました」



「続きまして、一年生ながら候補者に推薦された嵯峨サトルさんにインタビューさせていただきます」
「よろしくお願いします」
「今回の出馬は推薦ということですが?」
「そうなんです。どなたとは申せませんが、ボクの名前が推薦状にあったそうで」
「さぞや驚かれたでしょう」
「それはもう。なにしろ、ボクはこの学校に転校してきたばかりですから。知らされたときは、何かの冗談かいたずらで、からかわれているんだろうと思ったくらいです。すぐには信じられませんでした」
「転校早々に生徒会長に推薦とはサプライズですね。それでも辞退なさらずにお引き受けになられた。その理由を教えていただきたいんですが?」
「理由がどうあれ、推薦された以上は出てみようと思いました。ボクを推薦したということは、何らかの期待があってということでしょ? 若輩者の自分に何ができるかは分かりませんが、ボクはなるべく、その期待に応えたいと思ったんです」
「なかなかできる決断じゃないと思います。普通は尻込みしてしまうのでは? それになんといっても、まだ一年生ですし」
「いえ、一年生という先輩を差し置いてみたいな点については、ボクは生徒会長になるための条件に関係ないと考えています。生徒会長には、歳とか学年とかじゃなく、誰が一番ふさわしいのか、誰が学校のため、生徒たちのために動いてくれるか、という点が重要じゃないでしょうか」
「なるほど。それにふさわしいのがご自分だと?」
「いやいや、ボクはそこまでうぬぼれ屋じゃありません。だけど、生徒会長を決めるのは、この学校の生徒全員です。一番ふさわしいと思われる人に投票するのですから、その結果こそが大事なのだと思っていまし、もしもボクが選ばれるようなことがあったら、粉骨砕身の覚悟で務め上げるつもりです。」
「嵯峨さんは転校してきたばかりということで、この学校を見る目も他の生徒と違うと思います。もし、生徒会長になられたら、何かやりたいことはありますか?」
「うーん、そうですね。まだ転校してから日にちが浅く、なんとなく肌で感じた程度ですが、ここの学校の校風は比較的自由で、生徒の皆さんも伸び伸び、生き生きとされているように思います。その点では、ボクもこの学校をとても気に入っていますし、ここへ転校してきてよかったと思っています。ただ、だからといって完璧ではありません。まだまだ改善の余地はあると思います。残念なことに、生徒の中には、学校の内外でトラブルを引き起こす人がいますし、いじめとかも表沙汰になっていないだけで、他の学校同様、あるみたいですね。今まではそういうことを多くの生徒が見て見ぬフリをしてきたと思うんです。でも、そういったことを他人事と捉えるのではなく、みんなで考えていくことができるんじゃないでしょうか。だって、それらは自分たちの学校のことであり、友人のことでしょ? それをもっと真剣に受け止める必要があるんじゃないでしょうか」
「それは例えば、風紀粛清を行うとか、そういったことでしょうか?」
「それほど大袈裟なものじゃありませんが、やはり自分たちが決めたルールは守ろうという意識づけですね。ルールを窮屈だと考える人もいるかもしれませんが、自由と無法は違います。自分たちで約束事を作った上で、全員が楽しい学校生活を送れれば最高だと思います」



「最後に、一年生ながら大胆不敵にも立候補を表明した仙月アキトさんに伺います。――ズバリ、立候補された動機を教えてください」
「ああん? ――ああ、なんとなく、そのぉ……面白そうだから」
「……そ、そうですか」
「――てゆーかよ、ペペ」
「誰が“ペペ”ですか!? 私は“ねね”! 徳田寧音です!」
「おめェ、いつもの怪しげな関西弁はどうしたんだよ? 気取った標準語なんか使いやがって」
「インタビュー中です! インタビュー記事を関西弁で書けないでしょ! それに“怪しげな関西弁”とは失敬な! 私の関西弁は誰が何と言おうとネイティブです!」
「ふーん、そんなもんかね」
「そういうものです! ――それにしても一年生の立候補は、本校始まって以来の出来事だそうですが」
「へえ。そりゃ、結構。オレの名前がこの学校の歴史に刻まれたわけだ。愉快、愉快。まあ、立候補くらいじゃ、まだ小せえな。ここはやっぱ、史上最年少の生徒会長を狙うっきゃないでしょ! 『仙月アキト、偉大なる指導者が現る!』とかなんとか」
「………」
「どうした?」
「いえ、ちょっと頭痛を覚えただけです。――それにしても、無謀な挑戦としか言いようがありません。待田さんは前副会長として培ってきた実績がありますし、嵯峨さんは圧倒的な女子生徒からの支持があります。それに比べて、普段から嫌われ者の仙月さんを応援する方は皆無のように思いますが」
「まあ、そうだろうな。しかし、今に見ていろ。ここじゃ詳しく言えねえが、オレは斬新な改革案を持っている。それを発表すりゃあ、多くのヤツらがオレに一票を投じたくなるってもんさ!」
「改革案!? それは何か校則を変えるとか、そういった類のことですか!?」
「そうとも! まあ、今のところは秘密だ! これも作戦なんでな。あとは発表してのお楽しみってヤツよ!」
「内容は未だヴェールに包まれていますが、これは他の候補者にはない、大胆な戦略です。もちろん、どんな素晴らしいマニフェストだろうと、当選しなければ意味がありませんが」
「だから、当選するって! 絶対に! ――特に嵯峨とかいう新参者には負けねえからな!」
「おっと、ハッキリと名指しされましたね。何か嵯峨さんとは同じ一年生ライバルとして因縁のようなものがあるんですか?」
「別に。んなもんねえよ。ただ、ハナっからヤツが気に食わねえだけだ。転校早々、少しばかり甘いマスクをしてるからって、女どもにちやほやされやがって!」
「それは……完全なひがみ根性ですね」
「ひがんで悪いか! ――いいか、嵯峨! てめえはオレがぶっ潰す! 首を洗って待っとけ!」
「――ええ、以上、徳田寧音がインタビューさせていただきました!」

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